「高額療養費」の前に「生活保護の医療費免除」にメスを

「タダの医療」は公正な医療を歪ませる

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

がんや難病患者の生死を左右する制度がなぜ狙い撃ちなのか?

「高額療養費制度の患者負担上限額引き上げ案」についての政府方針が迷走している。どうやら政府は、現状では「凍結」するつもりはなく、今年(2025年)8月の見直しは強行し、来年以降の引き上げについては「再検討」するということらしい。

 そもそも、なぜこんな拙速かつ透明性に欠ける政策が提案されたのか、疑問を感じざるをえない。「高額療養費制度」は日本が世界に誇る医療制度であり、これを改悪することは日本の厚生行政の歴史における重大な過誤である。島根県知事が「提案されただけで国家的殺人未遂」と評したのは、的を射ている。実際、患者団体やがん関連学会からの強い反対の声が相次いでいる(関連記事「乳癌学会、高額療養費制度に対し緊急声明」「高額療養費制度上限引き上げに反対の声明」)。

 政府の目的は医療費の削減である。分子標的薬などの増加に伴って、制度発足当初よりも高額医療の額と期間が増加したことが医療財政圧迫の原因になっている、というのが政府の論理である。2月26日の衆議院予算委員会では、立憲民主党の議員が「200億円の財源で本案の凍結は可能」と指摘したが、石破茂首相は「財源をどこから得るのか」と一蹴した。

 しかし、日本維新の会の看板政策である「高校授業料の無償化」5,000億円の財源は曖昧なまま承認されたのに対し、がんや難病の患者の生死を左右する200億円の財源には厳しく対応するのは、明らかなダブルスタンダードである。そもそも、医療費削減の手段として、なぜ「高額療養費制度」を優先的に狙い撃ちするのか。その前に見直すべき制度は他にいくらでもある。

川口 浩(かわぐち ひろし)

社会医療法人社団蛍水会 名戸ヶ谷病院・整形外科顧問

1985年、東京大学医学部医学科卒業。同大学整形外科助手、講師を経て2004年に助教授(2007年から准教授)。2013年、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター・センター長。2019年、東京脳神経センター・整形外科脊椎外科部長。2023年から現職。臨床の専門は脊椎外科、基礎研究の専門は骨・軟骨の分子生物学で、臨床応用を目指した先端研究に従事している。Peer-reviewed英文原著論文は340編以上(総計impact factor=2,032:2023年7月現在)。2009年、米国整形外科学会(AAOS)の最高賞Kappa Delta Awardをアジアで初めて受賞。2011年、米国骨代謝学会(ASBMR)のトランスレーショナルリサーチ最高賞Lawrence G. Raisz Award受賞。座右の銘は「寄らば大樹の陰」「長いものには巻かれろ」。したがって、日本の整形外科の「大樹」も「長いもの」も、公正で厳然としたものであることを願っている。

川口 浩
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