研究の背景:血圧管理目標は非糖尿病より糖尿病の方が高くてよい!? これまでに何度か、糖尿病患者の血圧管理目標についての論文をご紹介してきた(J Am Coll Cardiol 2022; 79: 1849-1857、関連記事「糖尿病患者の血圧管理ガイドライン最新情報」、Cardiovasc Diabetol 2023; 22: 353、関連記事「糖尿病の降圧目標、130/80mmHg未満でOK!」)。 表1からご理解いただけるように、各種学会で糖尿病患者の降圧目標は異なっているのだが、その背景として、ACCORD-BP(N Engl J Med 2010; 362: 1575-1585)とSPRINT(N Engl J Med 2015; 373: 2103-2116、N Engl J Med 2021; 384: 1921-1930)での試験結果の相違があると私は思っている。 表1. 各種学会の糖尿病患者の目標血圧に関する勧告のまとめ (J Am Coll Cardiol 2022; 79: 1849-1857を基に山田悟氏作成) すなわち、ACCORD-BPにおいては2型糖尿病を合併している心血管疾患(CVD)高リスク者に対して収縮期血圧(SBP)120mmHg未満を目指すことは、140mmHg未満を目指すことに対して有意なCVD予防へのメリットをほぼもたらさなかったのに対し、SPRINTにおいては、糖尿病を合併していないCVD高リスク者に対してSBP 120mmHg未満を目指すことは、140mmHg未満を目指すことよりもCVDの発症や全死亡に対して有意な減少をもたらしたのである。 こうした糖尿病患者と非糖尿病者とでの臨床研究の結果の相違に伴って、非糖尿病者(SPRINTでSBP 120mmHg未満が望ましい)よりも糖尿病患者(ACCORD-BPでSBP 140mmHg未満で十分)のSBP管理目標値が高いという状況でよいのかという悩ましさがあったのである。 そんな中、中国のグループから2型糖尿病患者に対するSBP 120mmHg未満を管理目標値にすることの意義を検証した研究 BPROADがN Engl J Med(2025; 392: 1155-1167)に報告された。ことによると学会のガイドラインの記述を変える可能性もあり、ご紹介したい。