非心臓大手術が非リウマチ性大動脈弁狭窄症の急速進行のリスク要因に

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 人口の高齢化に伴い,弁の硬化変性による非リウマチ性大動脈弁狭窄症(AS)が増加しているが,心臓以外の大手術による炎症刺激が,その増悪因子になる可能性が浮上した。奈良県立医科大学中央臨床検査部講師の水野麗子氏は,同大学第1内科との共同研究により経胸壁心エコー(TTE)で経過観察中の非リウマチ性AS患者連続218例を後方視的に検討。その結果,全身麻酔下の非心臓大手術を受けた患者は,受けなかった患者に比べて,大動脈弁の最大圧較差(最大AVG)で評価した年間進行速度が有意に加速しており,非心臓大手術は非リウマチ性ASの急速進行の独立した予測因子であったことをCirc J(2015;79:867-872)に報告。非心臓大手術が,非リウマチ性ASの増悪に関連することを示した研究は今回が初で,追試結果が注目される。

研究者の横顔

奈良県立医科大学中央臨床検査部講師
水野麗子氏

 水野氏は奈良県立医科大学を卒業後,第1内科に入局。同大学大学院を卒業した後,総合医療学講座を経て,中央臨床検査部の講師となる。現在は,内科臨床とともに年間約7,000件の経胸壁心エコー図検査と250件の経食道心エコー図検査に携わっている。非リウマチ性ASの患者数は,高齢化社会を背景に増加の一途をたどっており,高齢患者では,しばしば手術を要するような重篤な合併症を有している。同氏は,非心臓大手術後の急速進行例を経験していたが,今回の研究では非心臓大手術が予想以上に強力な増悪因子となりうることが示された。


 第1内科教授の斎藤能彦氏らは,AMIモデルマウスでは,炎症性サイトカインネットワークの活性化を介して,遠隔部位の動脈の新生内膜過形成が増強されること,またAMIに対する緊急冠動脈インターベンション後の患者では,非責任冠動脈の動脈硬化が急速に進行することを既に報告している。水野氏と斎藤氏らは今回の結果を受け,抗炎症作用を有する薬剤の術前投与による術後のAS進行抑制効果について,至適投与法を含めて検討を進めるとしている。


 水野氏は「今回,大手術による炎症刺激が,大動脈弁の硬化変性を加速させる可能性が示された。エビデンス確立にはさらなる検討を要するが,内科医,外科医双方が非心臓大手術を非リウマチ性AS進行のリスクファクターとして認識する必要があるのかもしれない。今回の検討は,術後のASの管理や進行抑制について問題提起するきっかけになったのではないか。術前評価では,心機能だけでなく,大動脈弁の状態も詳細に評価しておく必要があると思われる。心エコーは非侵襲的に心臓の病態を高精度に評価でき,無症候性の弁膜疾患の検出にも優れる。ASは重度になるまで無症状であることも少なくない。高齢者や動脈硬化性疾患患者では,無症状であってもスクリーニング目的の心エコー図検査を勧めたい」と話す。

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