左室駆出率が保持された心不全に対するスタチン治療は生命予後を改善

~第2次東北慢性心不全登録観察研究(CHART-2)~

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

 標準的治療法が未確立で患者が急増していることから世界的に問題となっている,左室駆出率(LVEF)が保持された心不全(HFwithpreservedEF;HFpEF)に対し,スタチン投与が死亡率を低下させる可能性が,第2次東北慢性心不全登録観察研究(CHART-2)で明らかにされた。今回の結果をまとめた,東北大学循環器内科の後岡広太郎氏らは,傾向スコア(Propensityscore;PS)を用いた解析手法で交絡因子を調整後も,スタチン内服はHFpEF患者の3年全死亡率を低下させ,特に突然死および感染症死のリスク減少と有意に関連することをCircJ(2015;79:574-582)に報告。一方,LVEFが低下して発症する心不全(HFwithreducedEF;HFrEF)については,これまでの大規模臨床試験の結果と同様,スタチン治療による有益性との関連は示されなかった。

研究者の横顔

東北大学循環器内科・ 東北大学病院臨床研究推進センター
後岡 広太郎氏
(米・Brigham and Women’s Hospital, Cardiac Imaging Core Laboratory/ Clinical Endpoint Centerに留学中)

 後岡氏は2004年に東北大学を卒業後,2011年に同大学循環器内科助教となり,2014年から東北大学病院臨床研究推進センター(CRIETO)特任助教。同科の下川宏明教授から“学術的に意義の大きな研究を行うように”と常に指導を受けている。2008年から心血管疾患患者の大規模観察研究であるCHARTに携わり,以後日本人のエビデンスを発信することに打ち込んでいる。今回は,日本人の心不全に多いHFpEFに対する有効薬剤の検索を目的として,スタチンの有効性を検証した。

「解析当初はHFpEFに対するスタチン内服が生命予後,特に突然死および感染症死の減少と有意に関連したことは意外に感じられた」と後岡氏。しかし,先行研究では,HFpEFモデル動物でスタチンの心筋肥大・線維化の抑制効果などが確認されており,HFpEF患者に対するスタチンの有効性を示唆するデータは既にあった。突然死に関しては,細胞レベルではスタチンの心筋細胞膜電位の安定化作用が示されていた。またヒトでは,心筋梗塞後心不全に対するスタチン投与が突然死を抑制することが報告されていた。感染症死に関しては,心不全患者でスタチン投与による抑制効果が示されたのは今回が初めてだが,さまざまな基礎疾患を持つ患者に対するスタチン投与が感染症死を抑制するというメタ解析の結果が複数報告されており,今回の研究結果は矛盾しないものと考えるようになったという。

 同氏は昨年9月から米・BrighamandWomen’sHospitalに留学し,治験業務の一部を分担しながら,大規模臨床研究のデータ解析や3次元エコー解析に従事。「東北大学循環器内科とCRIETOに新しい知識や考え方などを還元できるよう励んでいる。毎日大変だが,世界中から研究に来ている仲間たちと充実した生活を送っている」と話している。

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