術前CKDがCABG患者の術後感染症や院内死亡の予測因子に

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 近年,慢性腎臓病(CKD)が,冠動脈バイパス術(CABG)を受ける患者の予後不良に関連することが相次いで報告されているが,日本人による大規模な検討は行われていなかった。京都大学心臓血管外科講師の南方謙二氏らは,単独CABG患者約1,500例のデータを用いて,多施設共同研究を実施。術前因子の中で,糖尿病やHbA1c値は術後転帰に有意な影響を与えない一方,進行したCKDが術後感染症の独立した予測因子であることを報告した(J Cardiol 2012;59:275-284)。今回,事後解析として,推算糸球体濾過量(eGFR)により術前腎機能レベルを分類し,CKDが術後転帰に及ぼす影響について調べた。その結果,重症CKD(eGFR30mL/分/1.73m2未満)は,CABG後の感染症,急性腎障害および院内死亡の強力な予測因子であるとCric J(2014;78:2225-2231)に報告した。

研究者の横顔

京都大学心臓血管外科講師
南方謙二氏

 南方氏は1994年に京都大学を卒業と同時に,同大学心臓血管外科に入局。大学病院などで研修後,2000年4月から米国に臨床留学(オレゴン州・ProvidenceSt.VincentMedicalCenter,ミネソタ州・MayoClinic)し,その間にまとめた論文で博士号を取得した。2003年に帰国後,大阪の民間病院で心臓血管外科の新規立ち上げに従事し,2009年に京都大学病院に戻った。昨年から埋め込み型補助人工心臓の治療を開始し,心臓移植実施準備を進めている。

 今回,同大学心臓血管外科の坂田隆造教授,南方氏の臨床留学の先輩である東京慈恵会医科大学循環器外科の坂東興教授らとともに多施設共同研究を主導。解析の結果,欧米で予後規定因子とされる糖尿病や血糖管理よりも,わが国ではCKDが術後感染症や院内死亡に強く関連することが分かった。

 米国胸部外科学会(STS)のデータでは,CABG患者のCKDの頻度は,軽症が51%,中等症が24%,重症が3.5%(透析患者1.5%を含む)。これに対し,今回の検討では,軽症は47%とほぼ同等だが,中等症,重症がそれぞれ34%,11%と高リスク患者が多かった。また,米国ではCABGのOff-pump手術の比率は20~25%とされるが,わが国ではOff-pump手術を第一選択としている施設が多い。今回の検討でも症例の60~70%がOff-pumpで行われ,術後感染や院内死亡リスクの抑制に寄与していた。

 南方氏は「わが国の心臓血管外科の技術は米国に比べて引けを取らないが,臨床研究の症例数が圧倒的に少ない。臨床成績を向上させるために,多施設共同研究で良質のエビデンスを蓄積する必要がある。今後も臨床の疑問や問題点の解決につながるような臨床研究を続けていきたい」と述べた。

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