DAPT前投与はPCI施行患者の周術期MIを抑制

関東地区大規模レジストリJCD-KiCS

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 国内外の診療ガイドラインでは,経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行患者に対し,ステント血栓症や周術期心筋梗塞(MI)の予防を目的として,抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)の前投与がクラスⅠで推奨されているが,日本人については,十分なデータがない。こうした中,東京医療センター循環器内科の池上幸憲氏らは,関東地区の大規模レジストリ研究であるJCD-KiCS(Japan Cardiovascular Database Keio inter­hospital Cardiology Study)に登録されたPCI患者連続6,528例のデータを解析。その結果,PCI前のDAPT導入はDAPT非導入に比べ,出血合併症リスクを増大させずに,周術期MIや術後入院中の心イベントリスクを有意に抑制することが示されたとCirc J(2015; 79: 2598-2607)に報告。今回の研究では,PCI前のDAPT導入率は68.2%にとどまっていたが,日本人の大規模コホートでもDAPT前投与の妥当性が確認された。

研究者の横顔
池上氏

東京医療センター心血管・不整脈センター循環器内科
池上 幸憲

 池上氏は,慶應義塾大学大学院循環器内科を卒業後,2007年から東京医療センター心血管・不整脈センター循環器内科に勤務している。2008年に運用を開始したJCD-KiCSは,現在14〜15施設が参加。PCIおよびアセチルコリン負荷試験の2万例以上のデータを集積し,20件以上の論文を発表している。今回の研究では,慶應義塾大学循環器内科教授の福田恵一氏,JCD-KiCSのシステム構築に携わった同科特任講師の香坂俊氏らの指導を受けた。診療の質を向上させるために解決すべき臨床的疑問について議論し,解析項目を絞り込んだ。

 先行研究の一部では,日本人を含む東アジア人種はDAPTに伴う手技関連出血リスクが高いことが示唆されている。池上氏は「今回の研究で,DAPT前投与で短期的な出血が増えなかったこと,またSTEMI群のDAPT前投与に伴う出血合併症頻度が国内の先行研究であるJ-AMIレジストリと類似していたことは,ガイドラインの妥当性を裏付けるデータとして重要である。日本では,より少ないクロピドグレルの負荷用量(300mg)や経橈骨動脈アプローチによるPCIの頻用も出血リスク軽減に寄与しているかもしれない」と指摘。今後,DAPT前投与による心筋保護の長期的な影響や,プラスグレルの国内承認用量の妥当性についても,レジストリ研究で明らかにすることが期待されるという。

 同氏は「今後とも,診療の質向上につながるような臨床研究に積極的に取り組みたい。また,若手医師が判断力を磨いていけるよう,教育にもできるだけ時間を割いていきたい」と述べている。

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