5,300年前のミイラからのH. pyloriで人類の大移動が明らかに?

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 Helicobacter pyloriH. pylori)は世界中で多くのヒトの胃の粘液層にすみついている菌で,胃炎,胃・十二指腸潰瘍や胃がん,胃MALTリンパ腫の原因となり,現在でも人類の多くに感染している。特に,日本を含む東アジアでは,胃がん発症との関連から非常に注目され,H. pyloriによる胃炎に対して,わが国では本菌の除菌療法が保険適用になっている。H. pyloriは人間と共存する微生物としては最古の部類に入り,現在の菌株からさかのぼった遺伝子系統樹からは,10万年以上前に人類がアフリカを出たときから移住を始めたときにはもう既に保菌しており,やがて世界中に広まったことが分かっている。

  5,300年前に氷漬けになった銅器時代のミイラとして知られる「アイスマン」は,1991年にイタリアとオーストリアの国境付近で発見され,それ以来繰り返し分析されてきた。凍結した遺体の衣服の素材から,体内に入った花粉に至るまで,あらゆるものを調べた結果,初期の欧州農耕民の外見や生活,死因などについての多くの手掛かりが得られている。 今回,イタリア・ボルツァーノにあるミイラ・アイスマン研究所のFrank Maixner博士らは,このアイスマンの胃から世界最古のH. pyloriを同定し,その分析から人類の移動に関する大変興味深い報告を行った(Science 2016; 351:162-165)。今回は,少々趣向を変えて,この"古代ミステリー"を紹介する。

鈴木 秀和(すずき ひでかず)

鈴木先生

慶應義塾大学 医学教育統轄センター教授。

1989年に慶應義塾大学医学部を卒業し,1993年に同大学大学院医学研究科博士課程修了 。同年に米国カリフォルニア大学サンディエゴ校研究員,2005年に北里研究所病院消化器科医長を経て,2006年に慶應義塾大学医学部内科学(消化器)専任講師 ,2011年に同大学内科学(消化器)准教授。2015年11月より現職。
日本消化器病学会財団評議員,Rome委員会委員,日本ヘリコバクター学会理事,日本潰瘍学会理事,日本神経消化器病学会理事,日本臨床中医薬学会理事,AGAフェロー,ACGフェロー,Rome財団フェロー。

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