呼吸不全からニューモシスチス肺炎を予測する

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研究の背景:診断がそもそも難しいニューモシスチス肺炎

 ニューモシスチス肺炎(PCP)の診断は難しい。重症の患者では気管支肺胞洗浄がそもそも難しく、高張食塩水で喀痰を誘発してもまともな検体が得られにくいからである(施設ごとの手技の違いもあるかもしれないが)。日常生活動作(ADL)が比較的保たれた悪性腫瘍患者ならともかく、高齢者ではなかなか診断が付けられない。

 それを補ってくれるのがβ-Dグルカンであったり、乳酸脱水素酵素(LDH)であったりするのだが、たとえβ-Dグルカンが3桁に上昇していても、どうにかニューモシスチスを同定したいと思うのが医師の性(さが)だろう。

 ちなみに日本ではワコー法のβ-Dグルカンのカットオフ値31.1pg/mLがよく用いられている(感度92.3%、特異度86.1%、Chest 2007;131:1173-1180)。ただ、症例の中央値を取るともう少し高いところに分布しているため、感度を犠牲にして特異度を重視するなら50~60pg/mL辺りをカットオフ値にしたいと思っている(J Clin Microbiol 2018;56:e00464-18)。実際、PCP確定例ではβ-Dグルカン値3桁以上が多いと報告されている(J Infect Chemother 2014;20:678-81)。「β-Dグルカンが低下したから治療効果がある」という意見を聞くことがあるが、臨床的症状が軽快してもしばらく高値が続くため、診断に用いこそすれ効果判定には適用しない方がよい。また、高齢者の免疫不全ともなると、常時カンジダ症を有しているような患者もいるため、決してβ-Dグルカンを過信すべきではない。

 話が脱線してしまったが、要はニューモシスチス肺炎というのは、なかなか診断が付かないことが多いということである。

 さて、血液悪性腫瘍患者というくくりはあるが、興味深いPCPの予測スコアがある文献で提示されているので紹介しよう(Am J Respir Crit Care Med 2018年7月11日オンライン版)。

倉原 優 (くらはら ゆう)

国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科医師。2006年、滋賀医科大学卒業。洛和会音羽病院での初期研修を修了後、2008年から現職。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本感染症学会感染症専門医、インフェクションコントロールドクター、音楽療法士。自身のブログで論文の和訳やエッセイを執筆(ブログ「呼吸器内科医」)。著書に『呼吸器の薬の考え方、使い方』、『COPDの教科書』『気管支喘息バイブル』、『ねころんで読める呼吸』シリーズ、『本当にあった医学論文』シリーズ、『ポケット呼吸器診療』(毎年改訂)など。

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