肺MAC症に究極の治療法が誕生

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研究の背景:肺MAC症におけるジレンマ

 国内では、沖縄を除くと、非結核性抗酸菌(NTM)症の原因菌で最も多いのはMycobacterium avium complex(MAC)である。中国・四国地方および九州地方ではM. intracellulare感染症が多く、それ以外の地域ではM. avium感染症が多いとされている(Respir Investig 2018;56:87-93)。

 肺MAC症の治療は、リファンピシン・エタンブトール・クラリスロマイシン(RECAM)の3剤併用療法が主体で、そこにストレプトマイシンやカナマイシンなどのアミノグリコシド系抗菌薬の筋注を加えることもある。標準治療にストレプトマイシンの注射を加えることで、喀痰陰性化率が上昇することが知られている(Respir Med 2007;101:130-138)。

 しかし、リファンピシンの副作用に耐えられなかったり、眼科系の問題からエタンブトールが使えなかったり、全員が標準治療を継続できるわけではない。高齢者にとってアミノグリコシドの注射も腎機能の観点から容認し難いことがあり、また、外来で継続して注射が可能な病院もそう多くない。かといって、クラリスロマイシン単独で肺MAC症の治療を行うと菌が耐性化しやすくなることが分かっており、肺MAC症の実臨床はジレンマの連続なのである。

 そこで注目されているのが最大血中濃度(Cmax)を低く抑えることができ、なおかつ肺内のMACを根絶できる可能性がある吸入アミノグリコシドだ。実は、既にトブラマイシンの吸入製剤(トービイ吸入液300mg)が国内でも発売されているが、その適応は「嚢胞性線維症における緑膿菌による呼吸器感染に伴う症状の改善」に限られており、多くの呼吸器疾患の患者は適応とならない。

 吸入アミカシンについて、89例のNTM症患者に対する有効性をOlivierらが報告しているが(Am J Respir Crit Care Med 2017;195:814-823)、当該研究では菌種はMACとM. abscessusが混在しており、また嚢胞性線維症の患者が2割近く含まれており、第Ⅱ相試験ということもあって統一性に乏しいデータだった。

 今回、治療抵抗性肺MAC症に対する吸入アミカシンの有効性を検証したCONVERT試験を紹介する(Am J Respir Crit Care Med 2018年9月14日オンライン版)。肺MAC症の研究においてマイルストーンとなる重要な研究だろう。おそらく、近い将来日本でも吸入アミカシンが発売されるものと期待している。

倉原 優 (くらはら ゆう)

国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科医師。2006年、滋賀医科大学卒業。洛和会音羽病院での初期研修を修了後、2008年から現職。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本感染症学会感染症専門医、インフェクションコントロールドクター、音楽療法士。自身のブログで論文の和訳やエッセイを執筆(ブログ「呼吸器内科医」)。著書に『呼吸器の薬の考え方、使い方』、『COPDの教科書』『気管支喘息バイブル』、『ねころんで読める呼吸』シリーズ、『本当にあった医学論文』シリーズ、『ポケット呼吸器診療』(毎年改訂)など。

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