余命短いがん患者の骨折入院で目指すゴール 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ここに提示する症例は、私たちが実際に経験したものです。先生方はこの症例へどのようにアプローチされるでしょうか? 選択肢を選んで頂いた後に私たちが行った対応をお示しますが、それが適切だったか否かは分かりません。どういった対応が最も良かったのか、一緒に考えて頂けますと幸いです。 症例:82歳女性 現病歴: 肺腺がんで1年前に放射線治療を行ったが再発し、Best supportive careの方針となり診療所へ通院を始めた。呼吸器内科医から余命は数カ月〜1年未満と言われています。また、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症でプレドニゾロン8mg/日を長期に内服し、地域の総合病院へも定期通院をしています。 本人の状態は、認知機能低下を認めず、病状理解や治療方針を自分で意思決定することが可能です。ADLは、両側の変形性股関節症(関節置換術後)と両側の変形性膝関節症のため、屋内でもシルバーカーを利用して歩行しています。夫と2人暮らしで家事をやっており、なるべく在宅療養を続けたいとの意向があります。 ある日、自宅で転倒し強い右下肢痛が生じて歩行不能となり、総合病院へ救急搬送されました。診療所の医師へ右大腿骨顆上骨折であるとの連絡が来ました。総合病院の整形外科医から、骨折部のがん転移があり手術が勧められるが、基礎疾患を鑑みて手術が可能どうか、と相談されました。 既往歴: 肺腺がん(放射線治療後。再発、Best supportive care) 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、喘息とCOPDのオーバーラップ 両側変形性股関節症(術後)、両側変形性膝関節症、腰椎圧迫骨折 早期胃がん(ESD後)、胆石症 高血圧症、脂質異常症 常用薬: プレドニゾロン8mg/日、他多数 家族背景: 夫(糖尿病、狭心症でPCI後)と2人暮らし Q1:今後、本人と相談することになりますが、主治医としてまず、どのように考えるでしょうか 私たちが選んだ対応 ②機能予後を踏まえ、手術を勧める ご本人の強い希望により、総合病院で骨折部のプレート固定術が施行されました。手術時の病理検体では骨転移は認めず、ステロイド性骨粗鬆症による病的骨折の診断となりました。 【経過1】 歩行レベルのADLを目指す場合のリハビリ計画は、術後2カ月間を完全免荷とし、その後X線検査で仮骨形成が確認できれば、その後1週間ごとに1/3荷重→1/2荷重→全荷重と進める予定とのこと。ただし、ステロイド内服中のため予定が遅延する可能性があるということでした。 一方、自立歩行獲得を目指さず、車椅子レベルのADLで許容できる場合は、いつでも退院可能であるとの連絡がありました。 Q2:今後、本人とリハビリ計画、ゴール設定を相談することになりますが、主治医としてまず、どのように考えますか? 私たちが選んだ対応 ⑤ 早期退院するために、車椅子レベルのADLで過ごすよう強く勧める 主治医としては当初、変形性股関節症による疼痛が阻害因子となってリハビリが長期化する可能性や、入院中のがん進行が懸念されることから、車椅子レベルのADLで退院し、在宅リハビリへつなぐ方針を提案しました。 【経過2】 車椅子レベルのADLで退院し、在宅リハビリへつなぐ方針を提案しましたが、患者の在宅でのリハビリに対する意欲は高くなく、入院中にリハビリを行い、骨折前のADLまで回復してから退院したいという意向でした。この方はもともと強い在宅志向を持っていましたが、話し合いを繰り返す中で、「家事や夫の世話をするために帰りたいので、そのためにはシルバーカーで歩けることが必要」「がんが進行して、リハビリの途中で家に帰れなくなる可能性も覚悟している」との言葉が聞かれました。 Q3:本人の意向を伺った上で、リハビリ計画、ゴール設定について、主治医として、どのように考えるでしょうか。 私たちが選んだ対応 ① 自立歩行獲得を目指すべく、入院でリハビリを完遂する ご本人の意向に添い、入院の上、自立歩行獲得を目指したリハビリを完遂する方針にしました。 【経過3】 幸い予定通りに荷重を進めることができ、ご本人の意欲も高く、術後3カ月の時点でシルバーカーでの歩行が可能となりました。訪問診療・訪問看護などのサービス調整を行った後、無事に自宅へ退院され、家庭内での役割を果たせるようになりました。 本症例を振り返る 日常臨床において、「予後が比較的短い」または「リハビリの効果が乏しい」と予測されれば、リハビリ完遂よりも在宅復帰を優先させることが少なくないと思われます。ただし、「予後予測」も「リハビリ効果の予測」も、不確定であることも多いため、リハビリのゴール設定は臨床的にはジレンマになりうると思われます。 本症例では担がん患者で予後が限られている可能性がある上に、リハビリの早期開始も困難であったことから、通常以上に「リハビリ効果の予測」が困難で、リハビリのゴール設定に難渋しました。結果として、当初、ICF(国際生活機能分類)における心身機能・身体構造に偏ったアセスメントとなり、本人にとっての活動や参加(主婦としての役割)の重要性を見落としていました。 今回、ご本人と話し合いを重ね、意向の把握に努めたことで、最終的に具体的なリハビリ目標を設定できたことは幸いでした。そして、主治医として「なるべく家で過ごしたい」という意向は把握していても、「家でどのように過ごしたいのか」、つまり「夫のためを含めた家事を家で行いたい」という具体的な考えまで理解できていなかったことに気付かされました。 Clinical Knowledge 予後予測ツール 日常臨床において、「予後が非常に悪い」または「リハビリの効果が乏しい」ことが明らかであれば、リハビリ完遂よりも在宅復帰を優先させることが多いと思われます。担がん患者に対する簡便な(中期的)予後予測ツールとして、Palliative Prognosis Score(PaPスコア)があります1)。 表. Palliative Prognosis Score カットオフ値を用いる場合、9点以上では予後21日以下(週単位)、5.5点以下では予後30日以上(月単位)の可能性が高いと判断されます。 現状では、担がん患者に対しても、より長期的な予後の予測が可能なツールは存在しない現状です。 担がん患者におけるリハビリテーション 病期ごとに大きく4種に分けられています(Dietzの分類)2)。 1. 予防的:がん診断〜治療開始まで。機能障害の予防が目的 2. 回復的:治療開始〜治療中。機能障害や筋力低下の回復が目的 3. 維持的:再発・転移が出現したとき。進行する機能障害に対して運動能力を維持することが目的 4. 緩和的:積極的治療が受けられなくなったとき。要望を尊重しつつQOLを保つことが目的 ただし、この分類はあくまでも「がんの進行によるADL低下」に対して使用するものであることには注意が必要と思われます。今回の症例のように、肺がんの再発を生じていてもADLがある程度保たれており、月単位以上の予後が見込める場合には、通常のリハビリに準じた適用を検討するべきでしょう。つまり、経過中に生じた骨折に対する手術や回復を目指したリハビリによって、利益を得られる可能性があります。 日常臨床において、予後が非常に悪かったり、リハビリの効果が乏しかったりすることが明らかであれば、リハビリ完遂よりも在宅復帰を優先させることが多いと思われます。一方で、実臨床ではどちらの見立ても不確定であることが多く、どのような患者でリハビリ完遂を志向すべきかについて、今後、明らかになることが望まれます。 国際生活機能分類(ICF;International Classification of Functioning, Disability and Health) ICFはICIDH(国際障害分類)を根本的に改訂したものとして、2001年5月のWHO総会で採択され、人を人間全体として把握するための共通言語としてさまざまな分野で活用されています。生活機能(「心身機能・構造」「活動」「参加」)をプラス・マイナスの両面から見ることで、障害をより深く捉えることができるようになるとされています。 また、階層間には「相互依存性」「相対的独立性」があり、「心身機能・構造」自体が回復しなかったとしても、「活動」「参加」の向上を目指すことができ、逆に「活動」「参加」すること自体が「心身機能・構造」の回復を促すこともある点は興味深いところです3)。 胆がん患者の骨折など、悩ましいケースにおいては、予後の見立て、リハビリの目的を踏まえ、生活機能から、個々の患者に合わせたゴールを多職種と協調して考えていくことも、主治医としての重要な役割であることを再認識しました。 文献1)Maltoni M, et al. Successful Validation of the Palliative Prognostic Score in Terminally ill Cancer Patients. J Pain Symptom Manage 1999; 17: 240-247. 2)辻哲也. がんリハビリテーション最前線. 理学療法学 2015; 4: 352-359. 3)上田敏. 国際生活機能分類(ICF)とリハビリテーション医学の課題. リハビリテーション医学 2003; 40: 737-743. 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする × コメント一覧(件) 人気順 新着順 ※ コメントはログイン後に閲覧できます ※ コメントはログイン後に閲覧できます