心電図の明日はどっちだ? 機械学習がもたらす静かな革命

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

背景:機械学習はヒトの目を「超え」られるか?

 今年(2019年)夏現在、医療分野での機械学習の具体的な成果としては、マンモグラフィの読影(乳がんの鑑別)、眼底の診察(糖尿病網膜症)、そして皮膚がんの検出(メラノーマ)などといったところがよく具体例としてマスコミでも採り上げられる。

ここで言う「機械学習」とは厳密には「機械学習によって作成された統計的なアルゴリズムの活用」である。広い意味でこれを「人工知能」と呼んでもよい(そういう記事は多い)。が、本当の意味での「人工知能」というのは、ここにさらにリアルタイムにデータを読み込む工程を足し、自律的に学習できる(アルゴリズムそのものを書き換えられる)包括的なシステムを指す。医療の現場はここまでは(まだ)来ていない。

 循環器内科分野でも、実は昨年辺りから特に心電図の読影に関して専門家と「同等」のアルゴリズムが開発されたという報告がなされるようになってきている。代表的なものとしては、米国のStanford大学がiRhythmというベンチャー企業(元はGoogle)と共同で今年初頭にNat Med2019; 25: 65-69)に報告した研究成果が挙げられる。

 この報告では、リズム(調律)の同定のみではあるが、

  ・機械が専門家の精度をほんの少し上回った
  ・さらに、機械の「間違え方」が専門家のそれと非常に似ていた
    例:心房細動と心房粗動を間違える
      洞調律と異所性心房調律を間違える

 ちまたでは専修医の間に3,000枚読むと心電図に対して勘が働くようになるといわれている。米国での循環器内科の専門トレーニングの規定(COCATS)でもこのくらいを3年間で読むようにと呼びかけているが(著者もやらされた)、そこに費やさなければならない時間(と知識の積み重ね)を考えると、このNat Medの内容は凄まじい成果である。

 ただ、この研究もまだ機械とヒトが「同等」という枠を大きく超えるものではない。いくら働いても決して疲れないというのは機械学習プログラムの大きな利点だが、このくらいの内容であれば「頑張ればなんとか」あるいは「(調律でない)総合的な読影はわれわれが」と専門医側でも言い張ることができていた。

 最近の機械学習関連の発表(論文)を見ていても、JAMAなどの一流誌は成果が専門医や既存の統計的モデルと「同等」ということだけではAcceptしなくなっている(厳しい)。

香坂 俊(こうさか しゅん)

香坂 俊

慶應義塾大学循環器内科専任講師。 1997年に慶應義塾大学医学部を卒業。1999年より渡米、St Luke's-Roosevelt Hospital Center にて内科レジデント 、Baylor College of Medicine Texas Heart Institute にて循環器内科フェロー 。その後、2008年まで Columbia University Presbyterian Hospital Center にて循環器内科スタッフとして勤務。


帰国後は,循環器病棟での勤務の傍ら主に急性期疾患の管理についてテキストを執筆〔『極論で語る循環器内科第二版 』(丸善)、『もしも心電図が小学校の必修科目だったら』(医学書院)、『急性期循環器診療』(MEDSi)〕。2012年からは循環器領域での大規模レジストリデータの解析を主眼とした臨床研究系大学院コースを設置 (院生は随時募集中;詳細はこちら)。

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