ひとつの場所に留まらないという働き方

私のターニングポイント vol.2 薬剤師 小西良典さん

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 5ヶ月前まで東京都小笠原村のたったひとりの薬剤師として診療所に勤務していた小西良典さん。その業務はPharmaTribuneウェブの連載で紹介してくれましたが、変わっていたのは小笠原という離島での業務のみにあらず。小西さんご自身が、一般的な薬剤師とはかけ離れた考え方の持ち主でした。薬学知識を生かしつつ、薬剤師としての典型的な働き方にはこだわらないという小西さんのお話を伺いました。

薬剤師 小西良典さん

【小西良典さんプロフィール】

大学卒業後薬学部ではなく理学部の大学院に進学。博士課程を中退。その後、ドラッグストアなどで働きながら全国を旅する生活を続けて8年あまりのある日、旅行先の小笠原村が薬剤師を募集していることを知り、勢いで出願。見事採用され、以後、父島の診療所に勤務。小笠原診療所での業務経験を、1年半連載した。

薬剤師免許は生きるためのひとつの手段
薬学的知識を活用した別の生き方も想定

ー早速ですが、小西さんのご経歴を教えてください

小西:薬学部卒業後、理学部の大学院に進み、さらに医学部博士課程に進むも中退。その後ドラッグストア勤務を経て小笠原診療所で5年近く働きました。2018年3月に小笠原診療所を退職して、現在、休職中です。

ー離島での1人薬剤師というキャリアを経て、次はどのような職場を希望していますか?

小西:ドラッグストア、病院と経験したので、次は調剤薬局で働きたいと考えています。

―調剤薬局に期待する要件が増えると同時に風当たりも強くなっています。そのような中で、未経験の調剤薬局を選ばれるということ。不安はありませんか?

小西:もちろん、あります。一方で、薬剤師ではない生き方も常に意識しています。

 薬局に対する風当たりが強くなっているからこそ、薬剤師としての専門性を高めていこうという機運が高まっていることは感じています。それも1つの考え方だと思いますが、私にとって薬剤師免許は、生きるためのひとつの手段。薬剤師以外の職業もあると考えているので、専門性を高めていく努力はしていますが、薬剤師という職に特化してはいません。

 もちろん、薬剤師としての業務に支障が出ないよう最低限の情報収集や研鑽は行っていきますが、どうしても自分には分からない専門的な領域などは、詳しい人に聞けばよいと思うんです。

―分からないことは聞ける、相談できる薬剤師同士の横の関係が重要になりますね。

小西:そうです。恥ずかしがったりプライドが高くて相談できないという人がいますが、薬のことがわからなければ、薬剤師仲間に聞けばよい。小笠原のような遠隔地かつ薬剤師が一人だけの環境では、相談できることは大きな力となります。そうして周りの薬剤師と助け合いながら、むしろ、自分自身は、本当に自分の興味のある分野に関する専門的知識を掘り下げていきたいと思っています。

 弁護士の友人に、「弁護士は制度上弁理士にもなれるが、科学の知識が無いと業務は難しい。弁理士は薬剤師など、高い専門的知識を持っている人がなるとよい」と言われました。薬の特許などに関しては、薬剤師の薬学的知識が役立つと。このように、薬学知識も、薬剤師としてではない別の職業に結び付けて活用することができると思っているんです。だから、今は薬剤師として調剤業務を行っていますが、いずれ別の分野で薬学的知識を活用する薬剤師として生きていく可能性もあります。

ターニングポイントは薬学生時代
放射線取扱主任者の資格取得

―全国で居住地を移しながらドラッグストアに勤務し、その後は離島での診療所勤務と、個性的なキャリアを積まれてきた小西さん。薬剤師としてこのような働き方をするきっかけとなったターニングポイントはいつだったのでしょうか。

小西:キャリアに影響を与えたと言う意味では、在学中に放射線主任者の資格を取ったことがターニングポイントですね。

 友人と、なんとなく受験しようと思いつきました。試験勉強自体はかなり真剣にやって...薬剤師国家試験よりも頑張ったかもしれません...。何とか試験に合格したので、1週間ほど東海村の原子力研究所に研修に行きました。そこで働く研究員の人などと話しているうちに、「こういう、薬剤師ではない生き方もあるのだな」と思ったことが、今の考え方につながっていると思います。

 それまでは、薬学部に入ってただ漠然と「薬剤師になるのかな」と考えていたというか...何も考えていないに等しい状態でしたからね。

―そして、全国を旅する薬剤師となっていったというわけですね。

小西:そうですね、旅して回るというのは、大学院時代の影響があります。放射線主任者の資格をとった私は、化学への関心が高まり、薬学部卒業後、理学部の大学院に進学しました。そこで、全国の河川の水に含まれる水素同位体の量を比較するという研究に携わりました。とにかく、全国の水を汲んで回る(笑)。その経験から、今のスタイルができたのかと思いますね。

かっこつけずに知らない自分を認めよう

薬剤師という免許を活用して、場所を移しながら生きていくというスタイルですね。今後のキャリアを考える薬剤師にメッセージをください。

小西:薬剤師は薬のことなら何でも知っていて当たり前と思い込まないでください。分からなければ、その分野の専門家に聞き、相談すればいいんです!かっこつけずに、知らない自分を認める、そんな勇気をもってください。

 それから、薬剤師免許があるからといって、薬剤師で働かないといけない、ということはありません。薬剤師の知識や経験が活かせる場所はいくらでもあるし、勉強はいくつになってもできます。そうやって視野を広げれば、きっと何か新しいものが見えてくるはずです

―ありがとうございました。

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