老化現象だけど、治るかも?加齢黄斑変性って...?

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

50歳を過ぎた頃に、「ものが歪んで見える」「視野の中心が暗くて見にくい」といった症状が現れたら・・・加齢黄斑変性かもしれない。わが国において、失明の原因となる眼疾患の第4位は、加齢黄斑変性を主とした黄斑変性であり 、症例数は年々増加傾向にある。原因はその名の通り"加齢"であるため、誰にでも起こりうる疾患だ。高齢化が進むなか、失明患者を増やさないためにも、画期的な治療法が求められている。
2009年発売された抗体医薬品"ラニビズマブ(製品名ルセンティス®)"は、加齢黄斑変性によって失われた視力を改善する新薬として注目されている。
*「網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究 平成17 年度総括・分担研究報告書42. わが国における視覚障害の現状」より

光の受容は黄斑部がカギ

外界からの光情報は網膜で受容されるが、中でも黄斑と呼ばれる領域が、感受性が高い。
 特に、黄斑の中心部の直径0.2 ~ 0.35mm にあたる領域を中心窩と呼び、ここが最も重要となってくる。黄斑に異常を来たすと光受容能力が低下し、それが中心窩であればその低下は著しい。

同じ疾患でも、タイプによって危険度が全く違う!

同じ"加齢黄斑変性"といっても、タイプによって病状の進行、予後、治療法などは全く異なる。
● 萎縮型加齢黄斑変性
黄斑部の網膜色素上皮細胞が変性して機能を失い、そこに老廃物が蓄積することで網膜細胞が萎縮する疾患である。治療法はないが、視力の低下は比較的緩やかであり、あまり問題視されていない。

網膜色素上皮細胞とは?
網膜の最も外側(脈絡膜側)の層のこと。古くなった視細胞を消化する機能がある。また、脈絡膜血管から物質が無制限に網膜に移行するのを防ぐ、血液網膜関門としても機能している。

● 滲出型加齢黄斑変性
脈絡膜から脈絡膜新生血管が生じ、この異常な血管からの出血などにより黄斑の網膜組織が破壊されることによって視力が低下する疾患である。病状の進行は萎縮型と比較して速く、早急に治療しなければ失明の恐れがある。

脈絡膜新生血管とは?
脈絡膜から新たに発生し、網膜色素上皮細胞の上あるいは下に形成される病的な血管のこと。正常な血管ではないために破れやすく、出血を起こしやすい。

以下、滲出型加齢黄斑変性について述べる。

薬物療法にはどんなものがあるの?

 滲出型加齢黄斑変性は、新生血管が形成されなければ起こらないと考えられる。現在、血管新生に関わる血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)阻害作用を持つ3つの薬物に適応が認められている。
● ペガプタニブナトリウム(製品名:マクジェン®
数種類存在するVEGF のうち、VEGF165 と特異的に結合してその働きを阻害する薬物である。すべてのVEGF を阻害する作用はないが、視力が低下するのを防ぐ、すなわち視力を維持する効果がある。
● ラニビズマブ(製品名:ルセンティス®
すべての種類のVEGF を標的とする、ヒト化モノクローナル抗体である。高価ではあるが、加齢黄斑変性により低下した視力を回復する効果が得られた、初めての薬物である。
● アフリベルセプト(製品名:アイリーア®
新たな構造とVEGFとの結合メカニズムを有する。ラニビズマブに対する非劣性が確認されている。

ラニビズマブはどうして視力を回復できるの?

 正常な網膜細胞は新陳代謝を繰り返しており、老廃物が生じても網膜色素上皮細胞によって消化される。しかし、加齢によって網膜色素上皮細胞の機能が低下すると、老廃物は代謝されず、脈絡膜内に蓄積する。蓄積した老廃物は持続性の弱い炎症を起こし、これらが引き金となって脈絡膜から血管新生が起こる。
 新生血管は、脈絡膜と網膜色素上皮細胞の間にあるブルッフ膜を突き破り、網膜色素上皮細胞の下、あるいは上まで侵入してくると急激に増殖を始める。この新生血管は壊れやすく、そこから滲出した血液などが黄斑の機能を低下させるのだ。
 新生血管が形成される際、VEGF がVEGF 受容体に結合することが必須である。ここに、ラニビズマブを注射すると、VEGF はラニビズマブと結合、すなわちVEGF とVEGF 受容体は結合できないため、血管内皮細胞は増殖できない。よって新生血管の成長や増殖も抑制され、最終的に黄斑は元の正常な状態に戻ると考えられる。
 加齢黄斑変性は特定疾患に指定されていることからも、このような薬剤の実用化が眼科領域に大きな影響を与えたのは言うまでもない。

参考資料
  1. 岡田隆夫編.集中講義 生理学.東京、メジカルビュー社、2008、347p.
  2. 高橋長雄.からだの地図帳.東京、講談社、1989、162p.

[PharmaTribune 2009年5月号掲載、2015年12月加筆修正]

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