薬剤師のための健康行動科学/行動変容モデル3(実行期〜維持期)

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国立病院機構京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室 岡田 浩

 連載の第3回は「すでにできている患者さん」に対しどうアプローチするかというものです。

 食事療法・運動療法にも積極的に取り組んでいて、薬もちゃんと服用できている患者さんだと、皆さんは特に話すことはないと思うかもしれません。実際、患者さん自身も薬剤師に相談する必要性を感じていないことが多く、処方内容もずっと変わらないため薬歴に情報が残っていないこともしばしばです。

 今回は、このような患者さんに対し、薬剤師としてどう支援するのかを解説します。

図 行動変容(変化ステージ)モデル

ケース3 すでに生活習慣改善に取り組んでいる患者さん

60歳代女性。経口糖尿病治療薬(ジャヌビア®25mg)が処方されているが、過去の薬歴には詳しいことは記載されていない。薬歴の最初の画面に「質問すれば教えていただけます」「HbA1c6.3%」「アドヒアランス良好」「ジェネリック医薬品は発売されれば情報提供」と記述あり。

失敗例

NGワード、ピットフォール

薬は忘れずに飲んでください
決まりきった言葉を言っても多くの患者さんは聞いていません。受け止め方によっては、薬剤師が押し付けていると患者さんが感じる可能性もあるので、信頼関係を築く上で障害になるかもしれません

「特に何も言わず、渡してしまう」
療養行動は、服薬・食事・運動など分野によって大きく異なることがわかっています。薬をきちんと飲んでいる維持期の患者さんであっても、食事や運動は別だということです。運動はやっていても、食事療法は上手くできないというような患者さんは多くいらっしゃいます。できていると決めつけず、それぞれの療養行動がどの程度行えているのか少しずつでも聞いてみて、継続できるよう支援するのも薬剤師の仕事だと思います。

では、どう対応すればいいの?

成功例

今回の患者さん・・・
維持期行動を変えて6カ月以上

見分け方

 行動変容モデルでは、行動を変えて6カ月以内だと「実行期」、それ以上では「維持期」とされています。「維持期」の患者さんは、検査値のコントロールが良好で、療養行動がすでに生活の一部になっている患者さんです。例えば「毎日歩かないと気持ち悪い」や「別に特別なことはやっていない」といった発言がみられます。

 注意しなければならないのは、処方変更もほとんどなく、本人も特に困っていないために、薬剤師に対し話す必要性を感じていないことがしばしばある点です。話すことを嫌がる患者さんに無理に話しかける必要はありませんが、完治しない病である糖尿病は一生療養生活を継続しなければいけないので、治療を中断せず、療養行動を継続できるように支援していくことも薬剤師の仕事の一部です。

 毎回少しでもいいので患者さんの生活習慣や価値観などを聞いておくことで、患者さんは支援してくれている薬剤師が薬局にいると感じることができます。

対応

 「維持期」の患者さんに対して、薬剤師も「この人はできている人だから」とあまり話もせずに薬を渡すだけになっていないでしょうか?維持期の患者さんであっても継続していた習慣が急に中断することは起こり得ます。「今継続できているんだから大丈夫だろう」という態度ではなく、「できるだけ長く継続できるように支援する」という態度で接することが重要です。

 そのためには、対話例のように継続するためのコツを聞くことで、継続するコツを患者さん自身に振り返ってもらったり、中断につながりそうな原因の対策を考えておきます。

(1)継続するメリットを考えてもらう

 継続することで得られるメリットを聞いてみるのもいい方法です。「散歩を毎日するようになって、何か変わったことありますか?」など聞くと、患者さんは「そういえば、体重が...」とか「歩くのが少し早くなった」などいろんなことを教えてくれます。そのことは患者さん自身がメリットとして自覚することにつながり、継続する意欲を高めます。

(2)脱落防止策(代替案など)を一緒に考える

 春先にせっかく運動を始めたのに、梅雨時に止めてしまうような患者さんも少なくありません。そのような場合、雨が障害になっています。予め薬局で患者さんとこのような障害について考えておくのも脱落を防止する方法です。

 例えば「雨の日はどうしますか?」や「近くに雨の日でも歩けるルートはありますか?」といった質問をしておくというものです。同じように食事でも、私の場合、新米が好きな方や干し柿が好きな方には、夏の終わりになったら「そろそろ新米の季節だけど、もう食べました?(笑)心配だからあまり食べ過ぎないでくださいね~」と、一声掛けておくようにしています。食べ過ぎなければ全く問題ないですし、好きなものを無理にやめろとは言えないので、"おせっかいだけど気にしていますよ"とお伝えする感じです。また、減量に成功した患者さんには、忘年会や新年会シーズンをどう乗り切るかについて対策を2人で考えたりもします。以前、患者さんの中に、勤務先で休憩時間にお菓子が回ってくるので断れず食べてしまうことが原因でHbA1cが上がってしまった方がいました。その患者さんとは薬局のカウンターで、どうやってお菓子を上手に断るかセリフを考えて、ちょっと2人でやってみたこともあります。

(3)続けていることを認める(コツなどを聞く)

 まだあまりなじみのない患者さんの場合は必ず行っています。「実行期」「維持期」の患者さんは、何も特別なことをやっていないとおっしゃることが多いのですが、実際は必ず継続するコツを持っています。そのようなコツやある種のこだわりを聞いておくことは、そのあとの療養支援を行う上で欠かせない情報です。また、他の患者さんにとっても有益な情報になります。

 薬局は学ぶ機会が少ないと思われがちですが、普段から患者さんに教えてもらうようにしていると、いつの間にか臨床的な知識は増えていくことを実感できると思います。また、人の話を聴くことはその人を承認することになります。そのため、患者さんはしっかり話を聴く薬剤師に対して好感を持ってくれることが多いはずです。薬剤師は患者さんへの説明を多くした方がいいと思っているかもしれませんが、実際にはそのせいでしっかり話を聞けなくなっているために、関係性が構築しにくくなっているのかもしれません。

表1 実行期/維持期のDoとDon't


表2 実行期/維持期の見分け方と対応

理論

 行動はある日突然変わってしまうこともあるので、少しでも長く療養行動が持続できるよう支援することも薬剤師の仕事として大切なのではないかと思っています。 というのは、「実行期」「維持期」の方、例えば年末にタバコをやめていた人(維持期)でも、忘年会で1本タバコを吸ったことをきっかけにまた吸い始めてしまうということを経験するからです。

まとめ

  • 「実行期」「維持期」であっても、逆戻りすることもあることを考え、患者を支援する。
  • 療養行動の障害になることを、予め想定して対策を一緒に考えるようなことも時には必要である。
  • 継続するコツを患者さんに教えてもらうことは、患者さんにとっては振り返るよい機会になり、薬剤師にとっても情報収集となり双方に有益である。
表3 変化ステージごとの見分け方と対応

参考文献

  1. 岡田浩. 3☆ファーマシストを目指せ!. 東京, じほう, 2013, p65-82.
  2. 岡田浩. 薬剤師のための糖尿病療養指導ガイド. 門脇孝 監, 日本くすりと糖尿病学会編, 東京, じほう, 2012, p231-235.
  3. 岡田浩. 糖尿病薬物療法の管理. 朝倉俊成 編, 東京, 南山堂, 2011, p364-369.
  4. 松原千明. 健康行動理論の基礎. 東京, 医歯薬出版, 2002, p29-36.
  5. 坂根直樹. 質問力でみがく保健指導. 東京, 中央法規, 2008, p61-69.

[PharmaTribune 2015年7月号掲載]

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