薬剤師のための漢方薬講座/頭痛-現代医学的な考察-

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亀田総合病院 東洋医学診療科
南澤 潔 氏

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イラスト:吉泉ゆう子

頭痛といっても原因や症状はさまざまです。原因疾患がある場合には、その治療が最優先で、そうでない場合は通常鎮痛薬で対処しますが、十分に効果が得られないケースもあります。

今回は、頭痛を引き起こす体質を変えていくことで症状を改善していく漢方薬の使い方を紹介します。

目次

現代医学的な考察

  • 二次性頭痛
  • 一次性頭痛

東洋医学的な考察

  • 気血水の異常からのアプローチ
  • 本治に用いる漢方薬
  • 標治に用いる漢方薬
  • 漢方薬の効果に地域差が?

◎現代医学的な考察

頭痛は頭の内側が痛みを感じるので「脳の病気では」と思われる方も多いでしょうが、脳実質に痛覚はありません。頭蓋内では、大きな血管や、脳を包む三層の膜のうち最も外側での「硬膜」の一部のみに痛覚があり、痛みを感じます。1972年にニクソン大統領が中国を訪問した際に、鍼麻酔による開頭手術が報道され世界を驚かせたという話があるそうですが、局所麻酔による脳手術が可能なのもこのためです。

頭痛の原因は解明されていない点も多いのですが、国際頭痛分類では、なんらかの疾患によって引き起こされる「二次性頭痛」、明らかな原因疾患がない「一次性頭痛」、そして「有痛性脳神経ニューロパチー、顔面痛」に大別されています1)

二次性頭痛

■頭痛を引き起こす疾患

通常の外来診療では、主に慢性に経過して再発を繰り返す頭痛が問題になります。そのような頭痛では、二次性頭痛の中でも急激な経過を取る外傷性の急性頭痛や脳出血、くも膜下出血といった脳血管障害が原因であることは極めてまれです。これらの、突然発症したり秒単位・分単位の急激な経過を取る頭痛は、生命に関わる重大な疾患が関与している可能性がありますので直ちに救急受診が必要です。

髄膜炎など中枢神経系の感染に伴う頭痛も比較的急性に経過します。一方、脳腫瘍や慢性の硬膜下血腫のように頭蓋内圧を亢進させるものは慢性頭痛の原因になります。逆に、頭蓋内圧が低下する「低髄液圧症候群」も頭痛の原因として注目されるようになりました。事故やちょっと転んだというささいな外傷をきっかけに脳脊髄を包む硬膜に微細な傷が付き、ちょうど豆腐を保護している水のような役割を果たしている脳脊髄液の漏出が続いて髄液圧が低下したために起こる頭痛です。

■薬剤使用による頭痛

薬物によって頭痛が起こることもあります。血管拡張作用がある亜硝酸薬などの一酸化窒素(NO)供与体、ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬などは頭痛の副作用がよく見られます。また、頭痛を抑えるために使用している鎮痛薬自体が頭痛の原因になることもあります。単一成分の鎮痛薬は月に15日以上、その他の頭痛薬は10日以上の使用が3カ月以上続いている場合、鎮痛薬が逆に頭痛の原因になっている薬物乱用頭痛の可能性があります1)

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一次性頭痛

なんらかの原因が見当たらない頭痛は一次性頭痛として、「片頭痛」「緊張型頭痛」「三叉神経・自律神経性頭痛(trigeminal autonomic cephalalgias;TACs)」「その他の一次性頭痛疾患」に分類されます。

■片頭痛

片頭痛は間欠的に繰り返す頭痛で、典型的には片側に拍動性の激しい痛みを訴えますが、しばしば例外もあります。発作は通常4~72時間続き、音や光に対して過敏になることが特徴的です。片頭痛の際には脳血管の収縮とそれに続く拡張が見られることが知られており、前兆(視野に「チカチカしたもの」が見える「視覚性前兆」など)や、頭痛そのものの原因であると考えられてきました。近年では、前兆の原因として皮質拡延性抑制(cortical spreading depression;CSD)という脳神経の活動異常が、痛みの原因としては三叉神経からの神経ペプチドの放出や中枢・末梢での感覚神経系の感作がより重要であると考えられるようになっています。トリプタン系製剤が高い効果を示す場合が多いのですが、めまいや眠気、倦怠感の他、喉の違和感といった不快症状など副作用も少なくありません。また、高価であることも問題となります。

■緊張型頭痛

一方、30分程度から時には1週間近く持続し、両側性の非拍動性の痛みを典型的とする緊張型頭痛については、メカニズムの解明は進んでいません。ストレスや運動不足、長時間の特定の姿勢保持などが増悪因子となりますが、心因性の要素の関与も疑われています。緊張性頭痛とも呼ばれますが、筋の緊張を抑制するボツリヌス療法でも期待した効果が得られないことが分かっています。治療には主に、NSAIDsやアセトアミノフェンが用いられます。

次のページでは頭痛の東洋医学的な考察と、治療に使う漢方薬などを学びます。

参考文献

1) 国際頭痛分類第3 版beta版(ICHD-3β).医学書院、2014.日本語版
http://www.jhsnet.org/kokusai_new_2015.html
Headache Classifi cation Committee of the International Headache Society(IHS).The International Classifi cation of Headache Disorders, 3rd edition(beta version).Cephalalgia 2013; 33: 629-808.

◆執筆者◆ 南澤 潔 氏


医学博士
日本東洋医学会 漢方専門医・指導医
日本内科学会  総合内科専門医・指導医
日本救急医学会 救急科専門医 

【ご略歴】
1991年 東北大学医学部 卒業
1991年 武蔵野赤十字病院 研修医
1993年 富山医科薬科大学(現 富山大学)和漢診療科
1995年 諏訪中央病院 内科
1996年 成田赤十字病院 内科
1999年 麻生飯塚病院 漢方診療科
2001年 富山大学 和漢診療科
2006年 砺波総合病院 東洋医学科 部長
2009年 亀田総合病院 東洋医学診療科 部長

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