薬剤師のための漢方薬講座/こむらがえり-現代医学的・東洋医学的な考察-

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

亀田総合病院 東洋医学診療科
南澤 潔 氏

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突然ふくらはぎなどの筋肉が痙攣を起こして、激しい痛みに見舞われる"こむらがえり"。地域によっては"からすがえり"、"からすなめり"などとも言うようです。通常は腓腹筋(ひふくきん)から趾(あしゆび)にかけて起こる有痛性筋攣縮をこむらがえりとしていますが、中には手、スネ(前脛骨筋)さらには大腿や腹筋、肩や首などの上半身にまで出現して悶絶する方もいます。ひどい発作の後は数日痛くて動けない、発作が怖くて夜寝たくない......など、患者さんにとって、その痛みはかなり深刻で、QOLをひどく低下させるようです。

目次

現代医学的な考察

  • 脱水や血液の電解質異常などが原因
  • こむらがえりを起こす疾病
  • 原因を是正する治療を行う

東洋医学的な考察

  • 血の不足が主な原因

現代医学的な考察

◆脱水や血液の電解質異常などが原因

こむらがえりは、テタニー※ 1と呼ばれる症候の一種と考えられます。テタニーは低カルシウム血症などに伴って起こることが明らかになっている一方、こむらがえりの病態は詳しくは分かっていません。臨床的には日ごろ運動不足の人が珍しく頑張った後の疲労時や、寝不足時などに起きやすく、病態としては脱水状態や血液の電解質異常が原因になります。熱中症では、初期にこの脱水と電解質異常が発生するため、熱痙攣(heat cramps)といわれるこむらがえりがよく起こります。マラソン大会などではこむらがえりを起こす走者を見ますね。一方、冷えによる血流障害でも起こりやすくなるようです。

血液中の電解質では、ナトリウム、カリウムなどの異常や低カルシウム血症のみならず、マグネシウムの不足が原因となります。マグネシウムはストレスを受けたときにも減少しやすいといわれており、血中のマグネシウムの減少がカルシウムの減少に関連することが知られています。低マグネシウム血症が原因となっていることは意外な盲点で、血液検査での血清マグネシウム濃度が正常でも尿中排泄量は低下しているケースがあり、マグネシウムを補充することによりこむらがえりの症状が改善することがあります。

※ 1 テタニー:手足などの筋肉が痙攣、硬直する症候。血液中のカルシウムやマグネシウムが減少することで、神経や筋肉が易刺激性となり症状が発現する。

◆こむらがえりを起こす疾病

疾病がこむらがえりを引き起こすこともあります。脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニア、坐骨神経痛などの神経疾患や、動脈疾患による血流障害が原因になります。また、肝硬変の患者さんや、糖尿病のコントロールがよくない患者さんにも見られます。血液透析を行っている患者さんでは、透析中にしばしばこむらがえりの症状が出て問題になるようですが、これは血液中の電解質の変動のためかもしれません。

◆原因を是正する治療を行う

いずれにしても神経の異常興奮が関係していると考えられるため、その原因となっているものを是正することが基本です。治療薬を使うなら筋弛緩薬になるでしょうか。しかし、ふらつきや転倒の原因になりうるため、高齢者にはやや使いにくい薬です。

東洋医学的な考察

◆"血"の不足が主な原因

東洋医学では、人が生きていくために必要な心身の基本的な構成要素として "気・血・水(き・けつ・すい)"というものを想定しています。それぞれ、"エネルギー・滋養成分・水分を象徴する仮想概念"、と大雑把に理解していただければよいかと思います。心身が正常な状態であるには、気血水が過不足なく供給され、滞りなく身体を巡行している必要があり、その破綻がさまざまな病気や異常の原因になると考えます。

こむらがえりはこの気血水のうち、"血"の不足(血虚)が主な原因と考えられています。また、"血"の滞り・巡行不良(瘀血/おけつ)、つまり局所血流の低下、循環不全も原因になりえます。

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次のページではこむらがえりの治療に使う漢方薬を学びます

◆執筆者◆ 南澤 潔 氏


医学博士
日本東洋医学会 漢方専門医・指導医
日本内科学会  総合内科専門医・指導医
日本救急医学会 救急科専門医 

【ご略歴】
1991年 東北大学医学部 卒業
1991年 武蔵野赤十字病院 研修医
1993年 富山医科薬科大学(現 富山大学)和漢診療科
1995年 諏訪中央病院 内科
1996年 成田赤十字病院 内科
1999年 麻生飯塚病院 漢方診療科
2001年 富山大学 和漢診療科
2006年 砺波総合病院 東洋医学科 部長
2009年 亀田総合病院 東洋医学診療科 部長

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