総合感冒薬~普通のかぜ薬と漢方、どっちがイイですか?-前編

医療法人社団徳仁会中野病院 青島周一

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「あの~、すみません。かぜのひき始めっぽいんですが、
やっぱり、こういうときは漢方の方が効くんでしょうか?」

総合感冒薬の棚を整理していたあなたの背後から、そろりと話しかけてきたのは30歳代くらいのマスクをした男性客。

よくよく話を聞いてみると、喉に少し違和感があり、鼻水が垂れてくるとのことで、本人いわく"かぜのひき始め"だそうです。今週末、会社で大事なプレゼンがあり、症状が悪化しないうちに治したいとのことでした。以前にかぜをひいた際、葛根湯を飲んだら症状がひどくならずに済んだということで、今回も葛根湯にしようかどうか悩んでいたとのことです。

市販の葛根湯のパッケージには「かぜのひき始めに・・・」なんて書いてあるので、かぜっぽいなと感じたら早めに葛根湯を飲むのがよいと考える人も多いと思います。市販の葛根湯製剤には幾つか種類がありますが、それぞれの製品で、処方量は若干異なる点に注意が必要かもしれません。

表1 市販されている主な葛根湯製剤と医療用の漢方製剤

表1を見ての通り、それぞれの葛根湯でも、1日分として配合されている生薬量に差異があり、全てが同じというわけではありません。理論上は、含有生薬量が多いほど「漢方としての効果」は強くなると考えられます。しかしその分、有害事象のリスクも増えるわけで(よく考えたら漢方製剤って、それ自体がポリファーマシー?)、単純に生薬の含有量だけで薬剤の有効性、安全性を比較できるものではないかもしれません。むしろ大事なのは「味」に対する好みだったり、顆粒剤か液剤かの違いによる飲みやすさだったりします。

【普通のかぜ薬とどっちがええんですか?】

かぜのひき始めによく効くイメージがある葛根湯ですが、一般的な総合感冒薬と比べて優れた有効性が期待できるのでしょうか。2014年に、総合感冒薬の代表的な一般用医薬品であるパブロンゴールドAと葛根湯を直接比較したランダム化比較試験が報告されています1)

この研究では、かぜの症状発症から48時間以内の18~65歳の患者407人を対象に、葛根湯(6g/日)を服用する群209人と、パブロンゴールドA(3.6g/日)を服用する群198人にランダム化して比較検討されています。

この研究で使用された葛根湯1日分には、カッコン8.0g、マオウ4.0g、タイソウ4.0g、ケイヒ3.0g、シャクヤク3.0g、カンゾウ2.0g、ショウキョウ1.0gが含有されていました。一方、パブロンゴールドA1日分には、ジヒドロコデインリン酸24mg、メチルエフェドリン60mg、グアイフェネシン125mg、アセトアミノフェン900mg、リゾチーム塩酸塩60mg、マレイン酸カルビノキサミン7.5mg、無水カフェイン75mg、ビタミンB1誘導体24mg ビタミンB12mgが含まれていました。

最終的に解析されたのは340人で、研究開始から5日以内のかぜ症状の変化が比較検討されています。主な研究結果を(表2)に示します。

表2 葛根湯とパブロンゴールドAの比較試験の結果

参考文献1より筆者作成

5日以内のかぜ症状の悪化や副作用については、両群で統計学的な有意差が認められませんでした。つまり、かぜのひき始めに葛根湯を服用しようが、パブロンを服用しようが、症状の経過は類似しており、約25%の人は悪化してしまうということです。副作用は葛根湯群でやや少ない傾向にありますが、この研究では統計学的な差はありません。ただ、眠気の副作用は理論上、ジヒドロコデインリン酸塩を配合しているパブロンで多いかもしれませんね。

とはいえ、葛根湯でも有害事象は起こりえます。感冒予防のために約1カ月にわたり葛根湯を内服し続けたことにより、薬剤性肺障害を起こした65歳女性の症例が報告されており2)、たとえ漢方薬といえども、長期にわたる不適切な使用には注意すべきかもしれません。

漢方製剤を服用する際に、その効果を最大限に発揮させるためには、やはり「証」の考慮が必要との意見もあるかもしれません。医療用の葛根湯製剤の効能効果には「自然発汗がなく頭痛、発熱、悪寒、肩こり等を伴う比較的体力のあるものの次の諸症」と書かれており、少なくともこうした症状の有無は考慮する必要がありそうです。葛根湯とパブロンゴールドAを比較した研究では、発汗がなく、寒気を有する人が研究対象となっており、多少は証の考慮がなされていたようです。

また、かぜの症状別に葛根湯、総合感冒薬、あるいは両者の併用によるに有効性を比較検討したアンケートも報告されています3)。この研究では、葛根湯(KK)群555人、葛根湯と一般的なかぜ薬(総合感冒薬)の併用(CK)群315人、一般的なかぜ薬(GC)群539人を対象に、かぜの各症状に対して、薬剤の効果を実感できた人の割合を比較しています。主な結果を(表3)にまとめます。

表3 かぜ症状に対する効果の実感

参考文献3より筆者作成

この研究では女性における肩凝りへの効果を除いて、葛根湯の方が総合感冒薬より優れているという結果は得られておらず、基本的には総合感冒薬の有効性を実感している人の方が多いという結果になっています。ちなみに葛根湯と総合感冒薬を併用しても、総合感冒薬や葛根湯単独と比べて、症状改善にそれほど大きな差が出ていないことも示されていますね。

この研究はアンケートなので、因果関係を決定付けるようなものではありませんが、葛根湯と総合感冒薬のどちらが優れているかについては判断しかねる、というのが正直なところでしょう。ただ、肩凝りのある女性では葛根湯はお勧めしやすいかもしれませんし、総合感冒薬と葛根湯を併用することは、コスト面、有害事象リスクの観点からもあまりお勧めできないように思います。

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