お昼の休憩時間の終わりが迫り、午後も気合いを入れていこうと、栄養ドリンクを飲んだ薬剤師のあなた。そこに、1週間ほど前にかぜ薬を購入した男性客が現れました。 『あのぅ、おかげさまで、かぜの症状はもうだいぶ良いのですが、咳だけが続いてしまって...。ちょっとつらいんです。どんな咳止めがイイですか?』 急性上気道炎における咽頭炎、鼻漏、咳嗽、倦怠感などのいわゆるかぜ症状は、1〜3日でピークに達し、自然経過にて治癒しうるものです。しかし、時に7〜10日ほど、場合によっては3週間ほど症状が持続することもあります1)。経験的にも、かぜをひいた後に咳嗽だけが残ってしまうケースはわりと多いように思います。 日本呼吸器学会の『咳嗽に関するガイドライン第2版』2)では、咳嗽を『持続期間』と、『喀痰の有無』によって分類しています(図1)。 図1 咳の分類 参考文献2より筆者作成 持続期間については、3週間未満を急性咳嗽、3 週間以上~8 週間未満を遷延性咳嗽、8 週間以上を慢性咳嗽と分類しています。急性咳嗽の原因としては、やはり急性上気道炎と、感染後咳嗽が多くを占め、遷延性咳嗽でも感染後咳嗽の占める比率が高い一方、慢性咳嗽では非感染症〔喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー、胃食道逆流症など〕が主体となります3~6)。 また喀痰の有無では、喀痰を伴わない、もしくは少量の粘液性喀痰のみを伴う乾性咳嗽と、咳嗽のたびに喀痰を伴い、その喀痰を喀出するために生じる湿性咳嗽に分類されます。乾性咳嗽の治療対象が咳嗽そのもので、鎮咳薬を考慮するのに対し、湿性咳嗽の治療対象は気道の過分泌の減少であり、これには主に去痰薬を考慮します。 今回のケースでは、上気道感染症の発症後7日ほど持続している咳嗽症状で、喀痰はほとんどないので、基本的には急性の乾性咳嗽に対する治療薬、すなわち鎮咳薬を中心に考えていけばよいでしょう。 だがしかし、それは本当にかぜによる咳なのか? 直近にかぜの既往があり、急性の乾性咳嗽であれば、その原因はかぜに起因するものと考えてよいと思います。ただし、咳の症状が長期化している、喀痰の症状もある、いつもとなんとなく違うかぜの症状だ、というような訴えがあったら、患者さんの年齢や喫煙などの有無、他の治療薬などを踏まえ、状況によっては以下について確認しておくとよいでしょう。特に結核や心不全が強く疑われる場合は、早急に医療機関受診が望まれます。 長引く咳嗽症状に対して確認しておきたい事項 ACE阻害薬を服用していないか。あるいは薬剤性肺炎を起こしうる薬剤※を併用していないか。喘息、COPDや副鼻腔炎の既往はあるか。胸やけなどの消化器症状がないか。あるいは胃食道逆流症などの治療を受けているか。体重が減少していないか。寝汗はかいていないか。喀痰は多くないか。長期化する咳嗽と合わせて微熱も続いていないか(結核を疑うサイン)。就寝後2~4時間ほどで、息苦しさや咳嗽で覚醒することはないか(心不全を疑うサイン)。 ※薬剤性肺炎を来しうる薬剤には抗不整脈薬、抗凝固薬、化学療法薬、免疫抑制薬などが挙げられます7) OTC鎮咳薬の基本的な考え 市販されている鎮咳薬には、テオフィリン、メチルエフェドリン、デキストロメトルファン、コデインリン酸、ジヒドロコデイン、グアイフェネシンなどが配合されています。15歳未満には使用できない薬剤が多いので、注意が必要です(表1)。 咳嗽は感染症に対する正常な防御反応でもあります。その治療目的は 患者さんの消耗や QOL 低下を防ぐことにあります。しかし、原因疾患の治癒を促すものではないので、どうしてもつらい症状を緩和したいときに用いる最後の手段、という認識を持っておいた方がよいかもしれません。後述しますが、特にコデインなどの中枢性麻薬性鎮咳薬は呼吸抑制などの有害事象も懸念され、小児への使用は原則避けるべきです。 表1 市販されている主な鎮咳薬 次のページでは「咳嗽対するOTC医薬品の有効性・安全性」「害ばかりで効果はないのか...」などを解説。