患者さんに自信を持ってOTCをおすすめしたい!論文情報や患者さん対応など、薬剤師による薬剤師のためのOTC解説です。 今回のお話「どの栄養ドリンクを選べばいい?」 栄養ドリンクの分類 栄養ドリンクに含まれる成分 栄養ドリンクの効果はカフェインによる!? では、カフェインにはどんな効果が? 栄養ドリンクは危険なのか? 相談されたらどう対応する? 相談してこない人への情報提供は? 今回出てくるOTCは・・・ チオビタドリンク(大鵬薬品)、チオビタドリンクアイビタス(大鵬薬品)、チオビタゴールド(大鵬薬品)、リゲイン(第一三共ヘルスケア)、リポビタンD(大正製薬)、リポビタンファイン(大正製薬)、リポビタンフィール(大正製薬)、リポビタンゴールドV(大正製薬)、エスカップ(エスエス製薬)、エスカップNEXT(エスエス製薬)、新グロモントA(ライオン株式会社)、グロンサン(ライオン株式会社)、アリナミン(武田コンシューマーヘルスケア株式会社)、アリナミンRオフ(武田コンシューマーヘルスケア株式会社)、ユンケル(佐藤製薬)、プラセントップ(スノーデン株式会社)、ゼナF-Ⅱ(大正製薬)、オロナミンC(大塚製薬)、リアルゴールド(コカ・コーラ)、モンスターエナジー(アサヒ飲料)、レッドブル(レッドブル・ジャパン)、ライフガードX(チェリオ) ※記事内では、清涼飲料水、医薬品、指定医薬部外品に含まれる飲料全てを指して「栄養ドリンク」、特に医薬品、指定医薬部外品に分類されるものを示す時は「栄養ドリンク剤」としている。 栄養ドリンクは危険なのか? 栄養ドリンクの有効性の多くがカフェインに依存しているということは、栄養ドリンクの害もまたカフェインによるものがほとんどと考えてよいと思います。カナダで調査されたエナジードリンクの有害事象報告13)によれば、12~24歳の青少年および若年成人2,055例のうち、エナジードリンクを摂取していた1516人の半数以上が少なくとも1つ以上の有害事象を訴えており、その症状は、カフェインによる生理学的作用と一致していたが、コーヒーなどの他のカフェイン源よりも顕著に多い(オッズ比2.67[95%CI 2.01~2.56])ことが示されています【表6】。 (表6)エナジードリンクの有害事象頻度 *急激な覚醒・興奮状態と、その後の急激な虚脱・疲労感 (参考文献13より筆者作成) カフェインを一生摂取し続けても健康への悪影響を生じないと推定される、1日当たりの摂取許容量(ADI;Acceptable Daily Intake)については、個人差が大きいことなどから日本においても、国際的にも明確な設定はなされていません。ただし、海外では幾つかのリスク管理機関が、一日あたりの最大摂取量を定めています14)【表7】。 【表7】健康に悪影響がないとされる一日当たりのカフェイン最大摂取量 (参考文献15より筆者作成) カフェインの大量摂取で注意したいのが低カリウム血症です。カフェインは細胞膜のNa/K ATPaseを活性化しカリウムを細胞内へシフトさせる働きがあります。また、利尿作用による尿量増加はカリウム排泄を促進させることで血清カリウムが低下します。さらに、アデノシン受容体を介した呼吸中枢刺激作用から、呼吸数増加による呼吸性アルカローシスを引き起こし、カリウムの細胞内シフトを促進させます。カフェインと類似のキサンチン化合物であるテオフィリンの添付文書にも、副作用として「低カリウム血症」の記載があります。 低カリウム血症をはじめとする電解質異常は、死亡につながりかねない重大な有害事象であるため、軽視できません。カフェインを含有した清涼飲料水の大量摂取で症候性の低カリウム血症を起こしたという症例報告は多数存在します16~19)。この他、栄養ドリンクの健康に対する影響や懸念を【表8】20)にまとめます。 【表8】栄養ドリンク(エナジードリンク)摂取が健康に及ぼす影響/懸念事項 (参考文献20より筆者作成) 最も一般的な有害事象は、心血管系および神経系への影響ですが、リスク行動に関する文献も少なくありません。エナジードリンクの摂取は、特に若年層において、薬物乱用やリスク行動の増加につながる可能性が指摘されており21)、教育や規制に関する議論をより慎重に重ねていく必要があるように思います。 相談されたらどう対応する? 確かにカフェインが含有されている栄養ドリンクは、短期的に疲労回復などの効果を実感しやすいかもしれません。栄養ドリンクの販売に際しては、カフェインを含有している他の飲食物(コーヒーなど)の摂取状況や薬剤(総合感冒薬やエスタロンモカ®錠のようなカフェイン製剤等)の服用状況を聴取した上で、1日当たりの適切な摂取量【表6】、製品の用法用量に従えば、多くの場合、問題はないと思います。もちろん、就寝前に服用したいのであればノンカフェインタイプをお勧めするとよいでしょう。 ただ、カフェイン含有食品を習慣的に摂取している人では、栄養ドリンクに含まれている50mg程度のカフェインを上乗せしたところで、その効果を実感できるかどうかは不明です。 その際に、より多くのカフェインが含まれているエナジードリンクを勧めるのではなく、むしろノンカフェインの栄養ドリンクをすすめるという選択も考慮できるかもしれません。つまり、カフェイン含有量の多さに効果を求めるよりも、「こちらは(清涼飲料水ではなく)指定医薬部外品ですよ」という説明のなかで、プラセボ効果に期待するという方法です。清涼飲料水には含有されていないタウリンやグルクロノラクトン等が含まれている点を強調してもよいでしょう(もちろんこれら成分の医学的な効果は不明ですが)。 製品にあからさまに"ノンカフェイン"と記載されていると、その有効性を疑う人もいるかもしれません。新グロモント®は1本当たりのカフェイン含有量が30mgと、他の栄養ドリンク剤よりも少なく、安全性の観点からもこうした状況では優先的に選択できるように思います。 相談してこない人への情報提供は? 栄養ドリンク剤の販売時に相談を受けることが多いのは、新規に購入するお客さんだと思います。他方で、習慣的に常用している人では、たばこやお酒と同様に、自身の好みのドリンク剤がほぼ決まっており、製品購入にあたり薬剤師や登録販売者に相談するケースはほとんどないでしょう。 有害事象リスクの観点からいえば、このように相談をしてこない人に対して情報提供を行いたいところです。アメリカ精神医学会の、「精神疾患の診断と統計の手引き第5版」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM-5)では、物質関連障害および嗜癖性障害群の中で、カフェイン関連障害群(caffeine-related disorders)という項目があります。習慣的に栄養ドリンク剤を服用している人に対しては、カフェインのリスク/ベネフィットに関する情報提供や、カフェインの依存状態に対する適切なケアを提供すべきなのです22,23)。 販売時にカフェインの摂取量などに関する注意喚起だけでも行えるとよいでしょうが、レジ打ちの段階で情報提供することは、なかなか難しいでしょう。特に、カフェイン含有量の高いエナジードリンクは食品扱いですから、お客さん自身もそのような適正使用情報を望んでいないことがほとんどだと思います。アルコールの依存リスクがあるからといって、缶酎ハイを毎日買う方に「飲み過ぎに注意してください」とは言えないと思いますし、たばこの販売だって「寿命が10年短くなるので吸い過ぎに注意してください」と説明しながらレジを打つ人は少ないでしょう。 第2類医薬品に指定されている栄養ドリンク剤は専門家からの情報提供が努力義務として規定されており、必要に応じて説明を行うことに違和はなく、むしろ行うべきです。しかし、医薬品よりも多くのカフェインを含有しているエナジードリンクが食品扱いで、その販売に当たり専門家からの情報提供等のシステムが構築されていないという矛盾は、日本における公衆衛生上の問題といえるかもしれません。エナジードリンクの摂取量は重度のストレス、睡眠問題、抑うつ気分、自殺念慮と関連しているという報告24)もあります。その因果関係の検証はともかく、どのような人が購入しているのかを注意深く観察することも重要だと思います。 カフェインの有害性情報を記載したポップを売り場に掲示するというのも、小売店という特性上、かなり困難と言わざるをえないのが現実でしょう。ただ、少なくとも栄養ドリンク剤について、"いつでも相談できますよ"という姿勢を何らかの形でアピールできるとよいかもしれませんね。カフェインをうまく活用しながら日常生活の質を高める手助けをするために、まずは専門的な情報提供を行える環境づくりが肝要かと思います。 【参考文献】 1) Drug Alcohol Depend. 2009 Jan 1;99(1-3):1-10. PMID: 188092642) Nutr Rev. 2012 Dec;70(12):730-744. PMID: 232062863) J Am Pharm Assoc (2003). 2008 May-Jun;48(3):e55-e63. PMID: 185958154) Exp Clin Cardiol. 2008 Summer;13(2):57-65. PMID: 193431175) Exp Clin Psychopharmacol. 2008 Feb;16(1):13-21. PMID: 182665486) Psychopharmacology (Berl). 2012 Jul;222(2):337-342. PMID: 223150487) Psychopharmacology 2011;214:737-745. PMID:210638688) BMJ. 2013 Mar 18;346:f1140 PMID: 235119479) Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2004 Dec;14(6):626-646. PMID: 1565746910) Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2015 Jun;25(3):271-277. PMID: 2538712711) 2018年禁止表国際基準 JADAホームページ 規程/書式/資料12) 薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック 2018年版 13) CMAJ Open. 2018 Jan 9;6(1):E19-E25. PMID: 2933527714) 厚生労働省. 食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A15) 食品安全委員会.食品中のカフェイン16) 日本内科学会雑誌Vol. 94 (2005) No. 1 P 132-134 DOI: 10.2169/naika.94.13217) 糖尿病Vol. 57 (2014) No. 3 p. 197-203 DOI: 10.11213/tonyobyo.57.19718) Intern Med. 2010;49(16):1833.PMID: 2072037019) 臨床神経学Vol. 53 (2013) No. 3 p. 239-242 DOI: 10.5692/clinicalneurol.53.23920) Front Public Health. 2017 Aug 31;5:225. PMID: 2891333121) Postgrad Med. 2015 Apr;127(3):308-322. PMID: 2556030222) Psychol Addict Behav. 2012 Dec;26(4):948-954. PMID: 2236921823) JAMA. 1994 Oct 5;272(13):1043-1048. PMID: 808988724) Nutr J. 2016 Oct 13;15(1):87. PMID: 27737671 【連載コンセプト】薬剤師、登録販売者のためのOTC連載です。OTC医薬品に対する考え方、使い方について「実践的」に整理します。筆者のドラックストアでのバイト経験と、具体的な薬剤エビデンスに基づき、実際の患者にどうアプローチしていけばよいのか、ピットフォールなどを交えて解説していきます。 【プロフィール】 保険薬局勤務を経て、現在は病院薬剤師。NPO法人AHEADMAP共同代表。普段は論文を読みながら医師に対して処方提案などを行っていますが、薬剤師によるEBMの実践とその普及に関する活動もしています。 公式ブログ:思想的、疫学的、医療についてTwitter:@syuichiao89