皮膚外用薬~しもやけ(凍瘡)にはどんな薬がイイですか?- 前編 医療法人社団徳仁会中野病院 青島周一 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする 患者さんに自信を持ってOTCをおすすめしたい!論文情報や患者さん対応など、薬剤師による薬剤師のためのOTC解説です。 今回のお話「しもやけにはどんな薬がイイですか?」 しもやけとは しもやけを疑ったときの留意点 しもやけの治療戦略 市販で購入できる主なしもやけ治療薬 結局のところどうしますか? 今回出てくるOTCは・・・ ベトネベートN軟膏AS(第一三共)/ベトネベートクリームS(第一三共)/フルコートf(田辺三菱製薬)/ベルクリーンS軟膏(クラシエ薬品)/オロナインH軟膏(大塚製薬)/クラシエ紫雲膏(クラシエ薬品)/メンソレータム軟膏(ロート製薬)/ユースキンA(ユースキン製薬) 秋深まり、朝晩もめっきり寒くなってきました。この時季、毎年のように"しもやけ"に悩まされている薬剤師のあなた。保温効率に優れた靴下を二重に履き、手袋を装着して出勤です。特に寒暖差が激しい初冬と春先は要注意なのですっ。しもやけができてしまうと、猛烈なかゆみに襲われ仕事にも集中できません......。そんな中、朝から外用剤の品出しをしていると、後ろから声をかけられました。振り返ると、高校生の男の子がたたずんでいます。 「毎年、冬になると、足にしもやけができてしまうんです。午後になるとかゆみがひどくなって、勉強にも集中でません......。かゆみを抑える良い塗り薬はありませんか?」 分かります、分かります。なぜが昼食後、しばらくしてかゆくなるのです。食後に体が温まり血行が良くなるからでしょうか。足先を冷やすとしもやけになるくせに、温めるとかゆみがひどくなるという厄介なパターン。 「つらいですよねえ、実は塗り薬なのですけど......」 これまで様々な塗り薬を試してきたあなた。実は経験的によく効いた薬は皆無でした。 しもやけとは しもやけ(凍瘡)は、手足の指先や耳などに発生する皮膚障害で、腫れや疼痛、強いかゆみを伴います。皮膚症状は初冬に発症し、春先には消失しますが、多くの場合は翌年の冬に再発します。寒冷環境における末梢血管の収縮と、それに伴う血行不良が四肢末端の炎症を引き起こすと考えられていますが、そのメカニズムについての詳細はよく分かっていないようです。寒冷環境に繰り返しさらされることでしもやけが発症することを踏まえると、末梢血管において虚血状態と再灌流が繰り返されることによって炎症性サイトカインの放出が起こり、皮膚症状が惹起されているのかもしれません1)。 1日の平均気温が15度を下回ると、しもやけの発症リスクが高まります2)。東京では11月になると気温が15度を下回る日が増え、12月初旬にかけてはしもやけが発症しやすい時季といえるでしょう。また、しもやけは男性よりも女性で、体格指数(BMI)が高い人よりも低い人で発症しやすいことが知られています3)。とはいえ、同じように寒気に当たっても、しもやけを発症しない人は少なくありません。そのため、しもやけの発症には、寒冷環境だけでなく遺伝的要因も影響していると考えられています2)。 ちなみに、同じく寒冷環境によって組織が障害される病態に凍傷があります。凍傷は氷点下に長時間さらされたことで体組織の一部が凍結し、血行が完全に途絶えることによって、組織が壊死します。外科的処置が必要になるなど、しもやけとは対処法や治療法も全く異なります。 しもやけを疑ったときの留意点 しもやけ症状で注意したいのは基礎疾患の有無です。血管炎、ベーチェット病、ループス腎炎(全身性エリテマトーデス)などでも、しもやけと類似した皮膚症状を発現することがあります4,5)。そのため、皮膚症状の発生時期や頻度、治療中の疾患がないかどうかについて確認する必要があります。5月になっても改善しないしもやけ症状は、要注意です。しもやけと関連のある注意すべき疾患を【表1】にまとめます。 【表1】しもやけと関連のある主な疾患 ☑レイノー現象(寒冷刺激の他、精神的なストレスによって生じる血行障害)☑末梢性チアノーゼ☑複合性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome)☑リベド血管症(血行障害によって引き起こされる再発性、難治性、有痛性皮膚潰瘍)☑末梢閉塞性動脈疾患☑肢端紅痛症(機能性の末梢動脈疾患の一種)☑白血病☑全身性エリテマトーデス☑肥満(動脈硬化の進展に伴う血行障害リスク)☑神経性無食欲症(拒食症)☑スリンダクの使用 (参考文献6を基に筆者作成) しもやけの治療戦略 しもやけは末梢血管収縮による血行不良が根本的な原因です。とても身近な疾患ですが、治療の選択肢はそれほど多くありません。末梢の血流が低下しないように血管を拡張するか、あるいはかゆみの原因である炎症を抑えるかの2つです。 血管拡張と聞いて思い浮かべる薬はなんでしょうか。薬剤師であれば、高血圧治療に用いるカルシウム拮抗薬を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。ニフェジピンのようなカルシウム拮抗薬は血管を拡張する代表的な薬剤であり、顔面潮紅・顔のほてりといった副作用は、同薬が顔面の皮膚血管を拡張することで発生します。ニフェジピンは古くから、しもやけに対する有効性が検討されています(もちろん、しもやけに対する適応はありませんが)。 ■血管拡張戦略―しもやけにニフェジピン? 1989年に報告された小規模研究(解析対象34例)7)では、1日20~60mgのニフェジピン投与で、皮膚障害の痛みが軽減し、新規のしもやけ発症を予防できたという結果でした。また、2003年に報告された投与前後比較研究8)では、ニフェジピン10mgを1日3回服用することで、治療開始から14日までの間に、24人の被験者のうち21人が80〜90%の症状緩和を報告しています(なお、この研究ではジルチアゼムのしもやけに対する有効性も検討されていますが、明確な効果は示されていませんでした)。 とはいえ、一連の報告は非盲検下で実施された小規模研究や、投与前後比較による検討など、有効性検証に優れた研究手法とは言えません。しもやけは、患部を冷やさないなど、適切なケアをすることで、自然的に治癒する皮膚障害です。非盲検試験や、投与前後比較研究では、しもやけの治療や予防効果を検証することは難しいでしょう。 しもやけに対するニフェジピンの有効性について、プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験の結果9)が2016年に報告されています。この研究では32人のしもやけ患者が、ニフェジピン投与群、またはプラセボ投与群にランダム化されました。ニフェジピンは試験開始から2週間までは30mg徐放製剤を1日1回、続く4週間では30mg徐放製剤を1日2回投与しています(試験期間は6週間)。その後、プラセボを服用していた人はニフェジピンを服用し、ニフェジピンを服用していた人はプラセボを服用し、同様の検討が行われました(クロスオーバーデザイン)。被験者が感じているしもやけの不快な症状をスコア(点数)化し、0~100点で評価されました。 その結果、治療開始から6週間における平均症状スコアは、ニフェジピン群で11.44点[95%CI 6.12~16.75]、プラセボ群で13.28点[95%CI 7.96~18.59]と、両群に有意な差を認めませんでした(スコアの平均差1.84点 [95%CI ー6.67~2.99] ) 。 ニフェジピンは降圧薬であり、1日60mgの投与では臨床的な降圧作用が発現します。低血圧のリスクなども踏まえれば、現時点でしもやけ治療にニフェジピンを使用すべき理由はないでしょう。そもそも適応もありません。なお、ニフェジピン軟膏のような外用製剤という可能性も無きにしもあらずですが、同薬は光に不安定であることから、軟膏やクリーム製剤の開発は極めて困難だと思われます。 ■抗炎症戦略―やはりステロイドで炎症やかゆみをコントロールする? しもやけ症状で悩まされるのは、四肢末端の炎症に伴う疼痛や激しい痒みです。したがって、炎症を抑えれば不快な皮膚症状も緩和できそうです。実際、局所へのモメタゾンの塗布で、しもやけ症状の改善症例が報告されています10)。 しもやけに対するステロイドの有効性を検討した二重盲検ランダム化比較試験11)は2017年に報告されました。この研究ではしもやけ症状を有する34人(平均53歳)の参加者が対象となっています。 被験者は6週間にわたり1日2回、ベタメタゾン0.1%クリームを塗布する群とプラセボを塗布する群にランダム化され、被験者が感じているしもやけの不快な症状が比較されました。症状の度合いは0~100点で評価されています。なお、この研究も、6週の治療後にベタメタゾンを塗布していた人はプラセボを塗布、プラセボを塗布していた人はベタメタゾンを塗布して同様の検討を行ったクロスオーバーデザインです。 その結果、治療開始から6週間における平均症状スコアは、ベタメタゾン塗布群で9.10点 [95%CI 5.31〜12.88]、プラセボ塗布群で8.54 点 [95%CI 4.75〜12.33]と、両群に有意な差を認めませんでした(スコアの平均差0.56点 [95%CI ー2.88~3.99] )。強力な抗炎症作用を有するステロイドさえも、しもやけのかゆみや疼痛症状に効果が期待できないという結果なのです。 次のページでは、市販されているしもやけ治療薬を比較! 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ×