患者さんに自信を持ってOTCをおすすめしたい!論文情報や患者さん対応など、薬剤師による薬剤師のためのOTC解説です。 今回のお話「しもやけにはどんな薬がイイですか?」 しもやけとは しもやけを疑ったときの留意点 しもやけの治療戦略 市販で購入できる主なしもやけ治療薬 結局のところどうしますか? 今回出てくるOTCは・・・ ベトネベートN軟膏AS(第一三共)/ベトネベートクリームS(第一三共)/フルコートf(田辺三菱製薬)/ベルクリーンS軟膏(クラシエ薬品)/オロナインH軟膏(大塚製薬)/クラシエ紫雲膏(クラシエ薬品)/メンソレータム軟膏(ロート製薬)/ユースキンA(ユースキン製薬) 市販で購入できる主なしもやけ治療薬 残念ながら、カルシウム拮抗薬も、ステロイドもあまり効果がなさそうですが、市販で購入できる薬剤にはどのような成分が配合されているのでしょうか。しもやけに効能を有する代表的なOTC医薬品を【表2】にまとめます。 【表2】しもやけに効能を有する主な薬剤 <div style=" clear: both; margin: 15px 10px; font-size: 81.25%; line-height: 1.5; text-align: right;">(筆者作成) ステロイドの有効性が期待できない以上、炎症を抑える治療戦略はあまり効果的とは言えないでしょう。少なくともステロイド含有軟膏を積極的に勧める理由はありません。医療用医薬品としてビタミンE外用製剤が用いられることもありますが、「chilblains tocopherol」のワードでPubMedを検索しても、2019年11月13日現在、1件12)しかヒットしませんでした。この報告は1974年に報告された皮膚微小循環に関するもので、しもやけの臨床症状に対する有効性を検討した研究ではありません。つまり、ビタミンE製剤に関しても、しもやけの皮膚症状に効果があるとする明確な根拠はないのです。 「かゆみ止め効果が謳われている局所麻酔薬(リドカイン)なら効果が期待できるのではないだろうか?」そう思う方もおられるかもしれません(僕自身がそうでした)。しかし、「chilblains Lidocaine」でPubMed検索しても文献は1件もヒットしませんでした。 結局のところどうしますか? こうして見てくると、しもやけについて明確な有効性が期待できる薬剤は皆無といってもよいかもしれません。市販されているOTC医薬品の数は決して少ないものではありませんが、いずれにおいてもプラセボを超える効果は期待できないように思います(このことは、しもやけを長年患っている僕自身の経験とも一致します)。インターネット上では"ビタミンEを配合した外用剤がしもやけに効く"という記載も目にしますが、実際的な効果はごくわずかでしょう。 とはいえ、相談してきてくれたお客さんに「どの薬も効果はないです」とお話しては、がっかりされてしまうことでしょう。つらいかゆみに耐え切れずに相談してきているのです。少しでも症状の緩和が期待できるのであれば、実証的な根拠に乏しくても、何か薬がほしいと思うことでしょう。 抗菌薬が配合されているフルコートfや、ベトネベートN軟膏AS、また乾燥しやすい冬季にクリーム製剤を積極的にお勧めする合理的な理由は少ないように思えますが、その他の薬剤であれば、状況によって販売を考慮してもよいでしょう。説明の仕方によってはプラセボ効果を最大限に引き出し、症状の治癒促進効果が期待できるかもしれません。実際、治療効果があると説明したプラセボクリームを塗布することによる、ヒスタミンにより誘発された炎症性皮膚反応の緩和効果が示唆されています13)。また、当帰四逆加呉茱萸生姜湯が末梢冷感に効果的であったことが報告14)されており、漢方を試してみたいという方には、併せてお勧めしてみるのもよいでしょう。 とはいえ、やはりしもやけは治療よりも予防が肝要です。保温効果に優れた靴下を二重や三重に履いて足先を冷やさないようにする、手袋を装着するなどの防寒対策で、しもやけの発症リスクが低下するという弱いエビデンスがあります15)。また、手洗いや水仕事などで手がぬれたままの状態や、雪や雨で靴下がぬれてしまった状態では、気化熱により皮膚の熱が奪われ末梢の血流が悪くなります。手足の指先を冷やさない、ぬれたまま放置しないなど、日常生活におけるケアについても説明できるとよいですね。 <div style=" clear: both; margin: 15px 10px; font-size: 81.25%; line-height: 1.5; text-align: left;"> 【参考文献/脚注】1) 日本東洋医学雑誌/67 巻 (2016) 4 号 DOI: 10.3937/kampomed.67.4132) Eur J Gen Pract. 2007;13(3):159-60. PMID: 178531803) Am J Med. 2009 Dec;122(12):1152-5. PMID: 199588974)BMJ. 2011 Jun 7;342:d2708. PMID: 216527485) J Med Case Rep. 2014 Nov 22;8:381. PMID: 254166486) Curr Treat Options Cardiovasc Med. 2008 Apr;10(2):128-35. PMID: 183253157) Br J Dermatol. 1989 Feb;120(2):267-75. PMID: 26471238) Indian J Dermatol Venereol Leprol. 2003 May-Jun;69(3):209-11. PMID: 176428889) Ann Fam Med. 2016 Sep;14(5):453-9. PMID: 2762116210) CMAJ. 2012 Jan 10;184(1):67. PMID: 2202565311) Br J Gen Pract. 2017 Mar;67(656):e187-e193. PMID: 2819361612) Am J Clin Nutr. 1974 Oct;27(10):1110-6. PMID: 441785013) J Psychosom Res. 2015 May;78(5):489-94. PMID: 2564927514) BMC Complement Altern Med. 2015 Apr 2;15:105. PMID: 2588663515)筆者個人の経験 【連載コンセプト】薬剤師、登録販売者のためのOTC連載です。OTC医薬品に対する考え方、使い方について「実践的」に整理します。筆者のドラックストアでのバイト経験と、具体的な薬剤エビデンスに基づき、実際の患者にどうアプローチしていけばよいのか、ピットフォールなどを交えて解説していきます。 【プロフィール】 保険薬局勤務を経て、現在は病院薬剤師。NPO法人AHEADMAP共同代表。普段は論文を読みながら医師に対して処方提案などを行っていますが、薬剤師によるEBMの実践とその普及に関する活動もしています。 公式ブログ:思想的、疫学的、医療についてTwitter:@syuichiao89