在宅活動を始めた、もしくは関心があるのだけれど、いざ実践となると、「唐突なハプニングに対応できる自信がない」という初心者の方もいるのでは。これから毎月、実際の活動で起こりえる落とし穴(ピットフォール)を事例に挙げ、その対応方法、解決策を探っていきます。 通院困難と思われる患者さん在宅を勧めたいけど、説明に不安が... いつも1人で薬局に来る高齢の患者さん。ふらふらとしているし、受け答えもおぼつかない様子。認知症が進行している印象ですが、在宅介護サービスは受けていないようです。薬の管理状況が気になりますし、外を1人で歩くことも危なそう。在宅訪問をお勧めしたいのですが、薬剤師から声をかけることにどう反応されるかと考えると、なかなか踏み出せません。 Q2. 最初にどうやって声をかければよい? 「お薬をお届けできます」では無料の配達員になってしまいそうです。薬剤師として介入する意義をどのように説明し、患者さんやご家族に納得していただいているのでしょうか。 <div style=" border: 1px dashed #ddd; padding: 5px; background: #d5e3ff; font-weight: bold; margin: 1.5rem auto;">在宅活動歴5年 「服薬の状況を見るためにご自宅にお伺いしてもよいでしょうか」 最初から「この患者さんは、絶対に在宅訪問が必要だ!」という意気込みで提案すると、患者さんが尻込みしてしまいます。「服薬でお困りのようなので、まずは状況を確認するためにお宅にお伺いしてもよいでしょうか?」というような形で話を始めてみてはいかがでしょうか。医師やケアマネへの連絡は、状況確認後でもよいと思います。訪問が必要と判断したのであれば、そのときに状況や事情を説明することで、理解してもらえると思います。 薬に関する患者や家族の悩みを在宅業務で支援できると伝える 薬剤師の在宅業務を説明しようと思ったきっかけがあるはずです。それは、患者さんの「薬が余っているから、今回は先生に言って減らしてもらいました」「あちこちの薬局で薬をもらってくるから、いつの薬か分からなくなった」「血圧・血糖値が高いと言われて薬が増えた」という声や、ご家族の「家のあちこちに薬が散らばっていて、管理できない」という声ではありませんか。そうした患者さんやご家族の悩みに対して薬剤師の在宅業務で支援できるのだと、具体的にお伝えすればよいのではないでしょうか。 <div style=" border: 1px dashed #ddd; padding: 5px; background: #d5e3ff; font-weight: bold; margin: 1.5rem auto;">在宅活動歴13年 「お薬の整理整頓や体調やお食事のご相談に伺いましょうか」 以前から来ていた患者さんが、その日はふらふらしています。どうしたのかと聞いたところ、胃がんで、開腹手術を受けたといいます。退院後、食事に困っているそうです。料理ができないし、食欲もなく食事の量も取れないとのこと。薬局で扱っているレトルトの介護食をお勧めしました。 この方、以前は薬の管理をしっかりできていたのですが、今は残薬がバラバラ出ているそう。「体力が回復してくるまで、薬や食事の管理をお手伝いしにご自宅に伺いましょうか。薬を取りに来るのもしんどいのではないですか」と声をかけました。 薬剤師の在宅訪問は、「介護保険のサービスの1 つなのですよ」とご紹介しています。薬局が独自に行っている薬の配達ではなく、公的な制度の下で運営されているサービスであることや、保険で賄えるということに安心していただけるのではないかと思い、そのように説明しています。 <div style=" border: 1px dashed #ddd; padding: 5px; background: #d5e3ff; font-weight: bold; margin: 1.5rem auto;">在宅活動歴7年 「いつもどのように過ごしてますか?」ケアマネや介護サービスの利用を確認 薬局での様子を観察して「おかしいな」と思う方には、介護サービスを受けているか、ケアマネの介入があるかを確認するようにしています。ケアマネの業務内容をよく理解していないため、サービスを利用できていない患者さんもいます。「いつもご自宅でどのように過ごしていますか?」と、入浴や食事に関する質問をしながらデイサービスやヘルパーの利用を探ります。 ケアマネが介入していないようであれば、ケアマネや医師につないで、介護サービスの必要性の検討をお願いするとともに、聞いた情報を共有するように心がけています。 薬剤師の在宅訪問が必要な患者さんには、薬剤師の在宅業務の意義を伝えます。薬の効果や副作用を薬学的に評価して薬物治療に介入することを説明し、そのためにフィジカルアセスメントを行うことも伝えています。 自分のことができなくなっていないか日常的な所作を観察する 急に尿臭が強くなったり、薬に関する理解やコンプライアンスの低下などの急激な変化があるときには、ご自分のことを患者さん自身でできなくなっている状態が予想され、認知症の初期症状が出ている可能性もあります。独居で、かつ他の介護サービスを受けていない方のこうした変化は、患者さんの生活に最も身近な医療提供施設として薬局が初めに気付く必要があると思います。病院やクリニックと異なり、薬の説明をしたときの理解度やお金の支払い方など(小銭がたくさんあるのにお札を出すなど)、薬剤師自身が患者さんの日常的な所作まで確認できるからです。 <div style=" border: 1px dashed #ddd; padding: 5px; background: #d5e3ff; font-weight: bold; margin: 1.5rem auto;">在宅活動歴21年 手押し車の不安そうな女性「ご自宅で状況を把握させて」 有料ヘルパーに付き添われて、市内の病院に受診していた当時88 歳の女性。薬は、ご自宅近隣の薬局で処方してもらっていました。その薬局が店を閉めることになり、うちの薬局へ紹介されました。初めて来局されたとき、患者さんは手押し車を押しながら、ヘルパーさんと一緒に入ってきました。不安そうな様子を見て、在宅をお勧めする必要があるかもしれないと考え、ご自宅に伺って状況を把握させてもらいました。 患者さんは、市営アパートに独居。整形外科、循環器科、皮膚科に通っており、このとき処方されていた薬は、内服薬が18種類、外用薬は4種類でした。腰が悪く要介護1ですが、住まいは3階です。訪問が必要だろうと考え、病院の医師に情報提供して、訪問指示をもらいました。訪問を開始し、14 日ごとの日めくりカレンダーを用いた服薬支援を行って1年ほど。病院の循環器科の閉鎖をきっかけに、ケアマネと話し合い訪問診療へ切り替えました。この機会を捉えて、医師と相談しながら内服薬の数を減らしていきました。 その後も、状況に応じて介護認定の区分の変更を提案したり、介護レンタル品を勧めながら在宅訪問を続けました。現在は、年齢を考慮して、ケアマネが所属する特別養護老人ホームに入所しています。