唾液中の高リスクHPV検出は頭頸部がんのバイオマーカーとなりうるか?

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研究の背景:HPV関連頭頸部がんにおける早期発見や治療効果判定、治療後モニタリングを目的としたバイオマーカー研究の現状

 中咽頭がんのうち、比較的多くの症例で高リスク型ヒト乳頭腫ウイルス(HR-HPV)持続感染が発がんの原因であることが明らかとなり、現在、中咽頭がんの診療において腫瘍組織でのHPVの有無、ないしその代替マーカーであるサイクリン依存性キナーゼ阻害2A(CDKN2A、以下、p16)遺伝子発現を調べることが常識となっている。しかし、口腔内のHPV感染自体を頭頸部がん(HNC)の発症や再発のモニタリングのためのバイオマーカーとして用いることは一般的に行われていない。口腔内のHPV感染がすなわちHNCの存在を直接示唆するものではないが、一方で発がんのリスクを示唆しうるものと考えられるデータも蓄積されつつある。

 HPV関連中咽頭がんは解剖学的に早期発見が難しく、かつHPV持続感染に伴う発がんが扁桃組織の陰窩底部から起こりやすいことが分かっており、従来の観察法では早期発見が困難である(Cancer Prev Res 2011; 4: 1350-1352)。同じくHPV関連がんである子宮頸がんと異なり、中咽頭がんでは前がん病変の概念が確立されていないことから、検診により前がん病変の段階で発見し治療を行うことによる予防法(二次予防)は確立されていない。またHPVワクチンによる中咽頭がんの発がん予防(一次予防)の効果も現在明らかではない。このような背景から、HPV関連中咽頭がんの早期発見や治療効果判定、再発検出に役立つバイオマーカーの確立が望まれている。

 HPVなどの発がん性生物を検出するだけではがんの早期発見にはつながらないが、発がんの高リスクグループを特定するマーカーにはなりうることから、HR-HPV、特に唾液中のHR-HPV検出と臨床的観察を組み合わせにより、無症候性のHPV関連HNC(HPV-HNC)を早期に発見したとの報告が少ないながらも散見される(Front Oncol 2020; 10: 408JNCI Cancer Spectr 2020; 4: pkaa047)。しかしながら、HPV-HNCの早期発見や治療後モニタリングにおける唾液中HR-HPV検出の有用性については、まだ一般的なコンセンサスが得られていないのが現状である。

今回紹介する論文は、HNC患者の唾液中のHR-HPV DNAを大規模なコホートで調査し、HPV-HNCのバイオマーカーや予後マーカーとしての有用性を検討したオーストラリアからの報告である(J Mol Diagn 2021; 23: 1334-1342)。

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