前回にも少し書きましたが、福井県の薬剤師事情は大変厳しいものです。厚生労働省の調査によりますと、薬局・医療施設に従事する人口10万対薬剤師数は全国平均の181.3人に対し145.1人で、沖縄、青森に次ぐワースト3位1)となっております。また、薬局数はワースト2位2)、分業率はもうずーっと最下位3)をひた走っております(ようやく50%台に乗りましたね。本田圭佑風に言うと、まだまだ「伸びしろ」がありますね!)。さらに県内には薬学部のある大学がなく、それに拍車がかかっているような状態です。 愚痴ばかり言っていても仕方ありませんので、それを改善させるための取り組みを何かしたいなと思っていました。最近、中学生や高校生向けに行なっている取り組みに参加させていただいておりますので、今回はそれを少し紹介していきたいと思います。 1)厚生労働省:平成28年(2016年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概要 3 薬剤師(PDF) 2)厚生労働省:平成28年度衛生行政報告例の概況 5 薬事関係(PDF) 3)日本薬剤師会:処方箋受取率の推計「全保険(社保+国保+後期高齢者)」平成30年2月調剤分(PDF) 中学生向けの取り組みでは処方監査体験! 高浜町での取り組みとして、毎年中学校に出向き「医療・介護特別授業」を他の医療・介護職と一緒に行っています。この取り組みは、町民の健康がどのように支えられているのか、安心して健康に過ごしていただくためにどのような職業の者がどのように働いているのかについて、直接触れていただき、少しでも高浜町の医療・介護への関心を引き出すこと。ひいては職業選択の1選択肢として医療・介護の道を考えていただくことや、将来の高浜町への貢献の可能性を高めることなどを目的としています。 毎年内容は少しずつ変えているのですが、今回は職業ごとにブースを設けて、そこに10人程度で1組になった生徒たちに回ってもらいました。与えられた10分で職業紹介と職業体験を行いました。薬剤師ブースではひと通り職業紹介をした後、模擬症例と添付文書を用いての処方監査体験をしてもらいました。少し難しそうにしている子もいましたが、みんな一生懸命に取り組んでくれました。 中学校の特別授業で処方監査をしてもらっている時の写真です!みんな一生懸命考えてくれました! 高校生向けの取り組みでは現役薬学生からの学生生活の話も 福井県薬剤師会および福井県病院薬剤師会では、一昨年より「高校生セミナー」を開催しており、今年も8月に開催されました。このセミナーではまず、県内の病院・薬局・行政・医薬品卸・製薬メーカーで働く若手薬剤師からの職種紹介や、現役薬学生からの学生生活の話がなされました。その後、ブースを設けていた大学の担当者からの学校紹介や進路相談、県薬剤師会からの奨学金の紹介などが行われました(奨学金には県が用意しているものの他に、各病院や薬局が用意しているものがあるようです。もし興味がございましたら福井県薬剤師会などへお尋ねください。私は福井に戻ってきてから奨学金制度の存在を知りました。知っていれば...もったいない...。薬学部進学の際には、そういったことも調べておくことをお勧めします)。 高校生セミナーの様子です。県内からたくさんの高校生および保護者に集まっていただきました!この中から何人の子たちが薬学部に進学してくれるのか楽しみです! 私は嶺南地区から会場へのバスの引率者として参加しました。去年から参加させていただいているのですが、昨年は何も用意していなかったため片道2時間のバスの中が退屈で...。というわけで、今年は行きのバスの中で1時間弱お話をさせていただきました。お薬手帳、誤飲、耐性菌、残薬、サプリメントと健康食品など、薬剤師として一般の方に知っておいてほしいこと、その他、薬剤師の中でのホットな話題についてお話をしました。 薬剤師は増えた方がいいのですか? 高校生セミナーでは、「福井県には薬剤師が少ない」というセリフを何度も聞きました。私もバスの中で言いました。そんなに言ったら逆に薬剤師になりたくなくなるのでは?と思うくらいでした(笑) そんな県内の薬剤師の現状ですが、県内の医療はそれなりに回っています。薬剤師は本当に増やさないといけないのでしょうか? この疑問に関しては、私も主催者も「薬剤師が多くいた方が医療の質は向上するのに、今の人数では十分ではない」という思いを持っているのだと思います。そういったことを考えると、「薬剤師が少ないから就職に困る可能性は低い」という説明よりも「薬剤師の数が多い方が医療の質が向上する」と伝えた方がよかったのかなと反省しています。 そして彼らを誘った私たちの責任として、数年後、彼らが薬剤師になった時に、思う存分活躍ができるように、その環境を用意しておかなければいけないと考えております。 今回ご紹介した中学生・高校生向けの取り組みは、薬剤師を知ってもらい、興味を持ってもらう、ということがメインでした。ただ、実際に薬学部へ進学し、また薬剤師として働き始めると「どの職種で、どのように働くのか」ということを考えないといけませんし、大いに悩む部分だと思います。今後はそういった薬学生や現役の、特に若手薬剤師向けに「地域に根ざして働く」ということについても話してみたいなと考えておりますので、関係の皆様、オファーをお待ちしております(笑) ちなみに、今年のこれらの取り組みについてはブログに詳しく書いておりますので、ご興味がありましたらご覧ください。 中学校での医療・介護特別授業:月刊ブログ 田舎の地域医療を志す薬剤師(2018.7)(中学校での医療介護授業) 高校生セミナー:平成30年度高校生セミナー「薬学への招待」で今年も"バスの添乗員"をして、ついでに講義もしてきました! 夏休みに大阪から友人が来ておりましたので、町内の観光スポットの1つである「城山公園」に行き、20年ぶりに「城山」を探検してきました。いい天気で、遠くに「青葉山」がとてもきれいに見えました! 【コラムコンセプト】 たくさんある薬剤師としての働き方の中から選んだ、地域に根ざして働く病院薬剤師。地域に対して何ができるのだろうかと日々考えながら業務をしています。田舎はたいへんなことも多いけど、田舎ならではのおもしろいこともすごく多いです。何か目立つことをするわけではなく、地味に細々と活動している薬剤師がたくさんいることを知っていただき、同じような境遇で働く薬剤師を少しでも勇気づけることができれば幸いです。 【野田学氏プロフィール】 JCHO若狭高浜病院薬剤科所属。薬学部卒業後、7年間の山口県でのチェーン調剤薬局勤務を経て、地元である福井県の病院に勤めだして5年目。生まれ育った人口1万人ほどの自然豊かな小さな町にある唯一の病院で、のほほーんと勤めながら、薬剤師・医療者・地域住民として自分に何ができるのかを日々模索中。ブログで地域での活動の様子や日々の業務で考えたことなどを書いています。 ブログ:リンコ's diary 田舎の地域医療を志す薬剤師