ACS後、抗血小板薬はそのままでよいのか?

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背景①強固なDAPTを最低でも1年間

 急性冠症候群(ACS)の後は、主にステント内の血栓再閉塞予防のため、アスピリンとP2Y12阻害薬の2剤併用投与を約1年間行うことが推奨されています。これをDual Antiplatelet Therapy(DAPT)といいますが、読者の先生方には、循環器医から「2剤同じような血小板のクスリが入っていますが、必ず1年間はこのまま続けてください」とステントを入れた後などに申し送りを受けたことのある方も多いのではないかと思います。

 P2Y12阻害薬には、最も早期に承認されたクロピドグレル(商品名プラビックス)の他に、より強力な抗血小板作用を示すチカグレロル(ブリリンタ)やプラスグレル(エフィエント)が新規に承認されていて、現在は3剤が使用可能です。その選択に関してですが、ことに血栓性が高いとされるACSの管理に関しては、昔からあるクロピドグレルよりも、この新規の2剤の使用を推奨している国や地域が多く、わが国で使用頻度が高いのはプラスグレルですが、世界的にはチカグレロルのシェアが圧倒的です。

背景② だが出血のリスクは?

 ただ、強力な抗血小板作用には出血リスクの増加がついて回ります。自分も消化器内科の同僚によく苦言を呈されることがありますが、特に日本人をはじめとする東アジア系の人種では抗血小板薬による出血の頻度が高く、現場では切実な問題となります。最近の研究では、抗血小板薬によって出血を起こした場合、①DAPTを一定期間全面的に中止しなくてはならなくなる(塞栓リスクを高める)、②全身の炎症反応が賦活化され(これも塞栓リスクを高める)、さらに③貧血が進行する(多臓器不全を来しうる)―という3方向から責め苦を受けるということになります。こうした要因によって、思いの外出血を起こした患者さんの長期的な予後が悪いということも明らかになってきました。

香坂 俊(こうさか しゅん)

香坂 俊

慶應義塾大学循環器内科専任講師。 1997年に慶應義塾大学医学部を卒業。1999年より渡米、St Luke's-Roosevelt Hospital Center にて内科レジデント 、Baylor College of Medicine Texas Heart Institute にて循環器内科フェロー 。その後、2008年まで Columbia University Presbyterian Hospital Center にて循環器内科スタッフとして勤務。


帰国後は、循環器病棟での勤務の傍ら主に急性期疾患の管理についてテキストを執筆〔『極論で語る循環器内科第二版 』(丸善)、『もしも心電図が小学校の必修科目だったら』(医学書院)、『急性期循環器診療』(MEDSi)〕。2012年からは循環器領域での大規模レジストリデータの解析を主眼とした臨床研究系大学院コースを設置 (院生は随時募集中:詳細はこちら)。

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