日本からもコロナの臨床データを!

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする
感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景:抗体カクテル療法は有効だったのか

 今回も、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)についてわれわれのやった研究です。よろしくお願いします。

 抗体カクテル療法は、重症化した患者の救命、という治療薬しか持たなかったわれわれに、「軽症(あるいは無症状)→重症」のプロセスをブロックする治療薬として極めて画期的な発明だった。これまでの治療スキームに存在していなかったミッシングピース、と言ってもよい。

 感染症に対する抗体療法はいろいろな研究がなされてきたが、実用化されたものは少ない。最大の理由は、「コストが高い」だ。例えば、インフルエンザに対する抗体療法なんかは理論的には開発可能だが、自然治癒する可能性が高いインフルに、高額な抗体療法は割に合わない。俗に「バイオ」と呼ばれるモノクローナル抗体も多いが、費用対効果の面で「割に合う」自己免疫疾患などに使われやすいのは、そのためだ。感染症だと、希少で死亡率の高いエボラウイルス病などにモノクローナル抗体が実用化されている。

 新型コロナについてはたくさんの治療薬が開発、検証されてはお蔵入りしてきた。抗体療法にもポシャったものがある。まず、回復患者の血漿を用いた抗体療法は、治療効果が確認されずにポシャった。

Simonovich VA, Burgos Pratx LD, Scibona P, Beruto MV, Vallone MG, Vázquez C, et al. A Randomized Trial of Convalescent Plasma in Covid-19 Severe Pneumonia. N Engl J Med. 2021 18; 384(7): 619-629.

 その後、bamlanivimabのようなモノクローナル抗体も開発されたが、薬剤耐性ウイルスの出現のために頓挫した。

 耐性に拮抗するには、作用点の異なる複数の薬を併用するのがよい。AIDSや結核で用いられてきた「定石」だ。これがカシリビマブとイムデビマブを組み合わせた抗体カクテルREGN-COV2(商品名ロナプリーブ)だ。しかし、この薬が日本で承認されたときは、査読を受けないプレプリントの臨床試験論文しかなかった。添付文書によると国内での臨床データは皆無であったが、世界で初めて日本の厚生労働省が特例承認したのである(海外では緊急使用許可は得ていたが、薬事承認はされていなかった)。

 当然、日本の患者に対する有効性を吟味する臨床試験が必要なのだが、コロナの波に溺れそうになっているわれわれ臨床屋が、コロナ対策と同時進行で多施設共同ランダム化比較試験を行うのは困難である。

 そこで、迅速性、フィージビリティ(実行可能性)そして科学的な妥当性を求めてわれわれが行ったのが、以下に紹介する後ろ向きコホート研究とベイズ推計であった。

Amano N, Iwata K, Iwata S. Clinical Effectiveness of REGN-COV2 in Patients with COVID-19 in Japan: A Retrospective Cohort Study with a Bayesian Inference. Infect Chemother. 2021 Dec; 53(4): 767-775.

全文閲覧可能

 なお、コロナに対する抗体療法について、詳しくはJ-IDEO(中外医学社)2021年9月号の僕の解説をご覧いただきたい。

岩田 健太郎(いわた けんたろう)

岩田氏

1971年、島根県生まれ。島根医科大学卒業後、沖縄県立中部病院、コロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院、アルバートアインシュタイン医科大学ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学大学院医学研究科教授(微生物感染症学講座感染治療学分野)・神戸大学医学部付属病院感染症内科診療科長。 著書に『悪魔の味方 — 米国医療の現場から』『感染症は実在しない — 構造構成的感染症学』など、編著に『診断のゲシュタルトとデギュスタシオン』『医療につける薬 — 内田樹・鷲田清一に聞く』など多数。

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする