Lancet(2022 Mar 12 399: 1080-1092)に「高齢者骨粗鬆症の薬物治療」の総説が掲載されました。見た瞬間、小生狂喜乱舞でした。Lancetには感謝に堪えません。以前、ロンドンに行ったとき、Lancet本社を遥拝してこようと思いながらできませんでした。 Lancetで骨粗鬆症総説が以前最後に出たのは2019年1月26日号でした(関連記事1)。 今回の総説は2019年以後の進歩が追加され現在の骨粗鬆症治療全体を俯瞰できます。 一読して特に驚いたのは、同じビス薬(bisphosphonate)といっても骨との結合は千差万別で一括して扱えないこと、デノスマブ(商品名プラリア)は厳格に6カ月ごと皮下注を繰り返さないと7カ月目からリバウンドで一気に骨粗鬆症が進行すること、副甲状腺ホルモン(PTH)製剤(テリボン、フォルテオ)は椎体には有効でも大腿骨近位部骨折予防には期待外れであること、ロモソズマブ(イベニティ)は骨塩量増加は椎体、大腿骨でも大きいのですがその効果は1年で頭打ちで4年ほど骨量は保たれますが心血管疾患を起こすかもしれないなどです。 Lancet(2022 Mar 12 399: 1080-1092)高齢者骨粗鬆症の薬物治療(総説)の要点は下記16点です。 VD高用量は骨量減少↑、骨折↑、カルシウムに骨折予防効果なく結石↑、心血管疾患↑ 国内:YAMの<70%が骨粗鬆症、70~80%骨減少症、骨折歴あれば<80%で骨粗鬆症 治療は骨密度とFRAX(10年以内大腿骨近位部骨折リスク>3%、大骨折リスク>15~20%)で ステロイドは骨芽/骨細胞減少、骨吸収抑制薬、骨形成薬は骨粗鬆症のタイプによらず有効 予防:BMI>20、屋内バリアフリー、白内障手術、鎮静薬/多数薬剤禁止、筋トレ+バランス訓練 ビス薬は破骨細胞内でコレステロール代謝阻害、デノスマブは抗RANKL抗体で破骨細胞阻害 ビス薬は朝食前、水で、30分坐位。椎体骨折50~70%減、大腿骨40%減、非椎体20~30% 効果消失はアクトネル1~2年、リクラスト>5年、GI症状あり30分坐位を。3分の1でflu症状、uveitisも ビス薬はVD↓でCa↓。eGFR<30でビス薬禁止、プラリア慎重投与。顎骨壊死(骨回転↓)注意 ビス薬5年でdrug holidayを。アレンドロネート1~2年、リセドロネート0.5~1年、ゾレンドロネート3年 デノスマブは全骨折抑制、6カ月投与厳守中止7カ月以後骨折多発。PTH移行不可 骨代謝マーカー(骨形成/骨吸収/骨基質)は治療開始時と6カ月以内の2回測定 エストロゲンは閉経10年まで、以後副作用↑。SERM(エビスタ、ビビアント)は非椎体無効、血栓↑ PTH(テリボン、フォルテオ、オスタバロ)の効果は椎体のみ。ラットで骨肉腫起こし使用は2年間のみ ロモソズマブは1年限定で骨量↑。その後プラリア/リクラスト/ボナロンで4年有効。心血管疾患? 月費用ボナロン1,709円、プラリア4,804円、テリボン4万3,952円、イベニティ5万238円! 骨粗鬆症治療の進歩は凄まじく、原著論文を隈なくフォローするのは到底不可能です。トップジャーナル総説の有難さが身に沁みます。 「隈なく」といえば徒然草第137段に、「花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは。雨に向かひて月を恋ひ、垂れこめて春の行方知らぬも、なほあはれに情け深し。咲きぬべきほどの梢、散りしおれたる庭などこそ見どころ多けれ」がありハッとさせられます。 花は満開の時、月は満月だけが見るに値するのではないというのです。月や花に憧れるその心持ちが情趣深いのです。 月見といえば実に幽玄で美しいのが徒然草第32段です。 「九月二十日のころ、ある人に誘はれ奉りて明くるまで月見ありく事侍りしに...」です。 香の匂いが微かに漂う、ある荒れた庭で月をしばし見ているとその家の人(「ある人」の彼女らしい)が「妻戸(両開きの戸)をいま少し押し開けて月見るけしきなり」とあります。 旧暦9月15日が満月、9月20日は月齢19.2、上弦の月で半月より少し膨らんだくらいです。京の街で夜、月を見ながらの散策なのです。現在は月を愛でることなどすっかり忘れられてしまいました。 また美しいと思うのが、枕草子第189段「野分(のわき、台風)のまたの日こそ、いみじうあはれに、をかしけれ」では「格子の壺などに、木の葉をわざわざしたやうに、こまごまと吹き入れたるこそ、荒かりつる風のしわざとは覚えね」。つまり格子の枡目に美しく色とりどりの木の葉が吹き入れてあるのはとても荒々しい風の仕業とは思われないと言うのです。 日常生活の些細なことに美しさを見いだし感動するこういう感覚を持てたら人生楽しいよなあと思います。今年のゴールデンウィークはどこにも行きませんでしたがバラの咲き始めた庭でビール飲んでいるだけで幸せです。