注目される精神症の発症予防、早期介入は有効か

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研究の背景:転換期にある"精神病"、psychosisが「精神症」に

 さまざまな精神障害の総称である精神病という言葉はスティグマを伴うことから、最近では基本的には用いられない傾向にある。しかし、統合失調症は症状が顕在化してから半年経過しないと診断できないため、発症して間もない状態を「早期精神病」と呼んだり、その発症を防ぐことを「精神病の発症予防」と呼んできた。また、うつ病で見られる幻覚・妄想について「精神病症状」と呼ぶなどの文脈でも用いられてきた。

 転換点となったのは、今年(2023年)6月に米国精神医学会による『精神疾患の分類と診断の手引 第5版』のテキスト改訂版(DSM-5-TR)の日本語版が刊行され、これまで「精神病」だった"psychosis"の訳が「精神症」とされたことだ。この訳語の変更を機に、偏見とスティグマが払拭されることを期待したい。

 とはいえ、スティグマを真の意味で取り除くには、「精神病」が不治の病でなく回復するものであるという正しい理解が浸透し、究極的には発症を予防できるようになることが必要ではないかと考える。特に近年、精神医学における早期介入について関心が高まる中で、精神症状態に移行しやすい高リスク状態を指す精神症発症危険状態(At-Risk Mental State;ARMS)に注目が集まっており、発症前からの早期予防的介入の必要性が臨床現場でも認識されつつある。

 精神症の発症予防研究で最もよく知られた研究者といえば、オーストラリア・メルボルン大学のPatrik D. McGorry氏である。同氏の最新の論文が、JAMA Psychiatry2023; 80: 875-885) に掲載された。

 なお、以下の記述では従来「精神病」とされてきた状態について、原則として「精神症」と記載した。ただし、「抗精神病薬」については、現状のままとした。

加藤 忠史(かとう ただふみ) 

 順天堂大学精神医学講座主任教授。1988年東京大学医学部卒業、同病院で臨床研修、1989年滋賀医大精神医科大学講座助手、1994年同大学で医学博士取得、1995年米・アイオワ大学精神科に留学(10カ月間)。帰国後、1997年東京大学精神神経科助手、1999年同講師、2001年理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チームリーダー、2019年理化学研究所脳神経科学研究センター副センター長を経て、2020年4月から現職。

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