SGLT2阻害薬、なぜ心血管イベントを抑制? 薬を投与せずにその効果を検証 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする 研究の背景:薬物標的をコードする遺伝子の変異の有無が糸口に ナトリウム/グルコース共輸送体(SGLT)2阻害薬は、当初2型糖尿病に対する治療薬として開発された。しかし、現在は2型糖尿病の有無や左室駆出率を問わない心不全、慢性腎臓病(CKD)の患者に対して心不全増悪による入院を含む主要心血管イベント発生率や死亡率を低下させることが示されたため、広く使用されている。 ただ、他の薬物治療と異なりSGLT2阻害薬はある意味「偶発的に」その効果が確認されたこともあり、どのような機序を介してこのような心血管イベント低下作用がもたらされているのかはいまだ不明である。 この点に関して、これまでに仮説としてはナトリウム(Na)利尿や浸透圧利尿、ケトン仮説などが提唱されているが、いずれもが明確に証明されたものでない。現在、その作用機序を明らかにすべく多くの研究が世界中で行われているが、その理由は、心不全やCKDの予後を制御している未知の因子または経路を同定できる可能性を秘めているからに他ならない。 薬物が体内に入ったときに、どのような機序を介してさまざまな効果を発揮するかという点は個々の薬物によって異なるが、SGLT2阻害薬は何をする薬物なのかという問いに関しては、「腎臓の近位尿細管に存在するSGLT2受容体を阻害する」という答えで間違いないだろう。しかしながら、既に述べたようにそもそもSGLT2阻害薬がどのような機序によって、2型糖尿病や心不全、CKDのイベントを低下させるのかが不明である以上、「本当にSGLT2阻害薬のイベント抑制効果はSGLT2受容体を拮抗し、糖の再吸収を抑制していることで説明できるのか。もしかしたらSGLT2受容体拮抗作用はイベント抑制と全く関係なく、未知のSGLT2阻害薬の体内での作用がこのイベント抑制効果を担っているのではないか」という、一見かなりラジカルな仮説は現段階では否定されえないのもまた事実である。 SGLT2受容体を拮抗することが心血管イベント抑制につながるのかどうかを、SGLT2阻害薬およびプラセボを用いた二重盲検ランダム化比較試験(RCT)以外で検証する術があるのか、というと一見なさそうだが、実はある。その手法の1つとして最近注目されているのが、薬物標的をコードする遺伝子の変異の有無をいわゆるパラメータに使うやり方であり、この方法はRCTといった臨床研究で得られた知見を補完するものとして最近使用されるようになっている。 端的に(そしてかなり単純化して)言うと、①人間の遺伝子の幾つかの変異は環境因子とは独立して起きる、②その起きた遺伝子変異の幾つかがある特定の薬物治療標的をコードしていること-が分かった場合、この遺伝子変異の有無を「環境因子から独立して行われた、その薬物治療と近似できる介入」として扱うことで、その特定薬物の効果を投与せずに検証できる寸法になる。ちなみにこの①を一塩基多型(SNP;Single Nucleotide Polymorphism)につなげるという思考がいわゆるMendelian Randomizationの考え方なのだが、このあたりはもしご興味があればfurther readingsとしてはJ Am Soc Nephrol 2016; 27: 3253-3265、Int J Epidemiol 2017; 46: 1734-1739などをご参照いただければと思う。ちなみにMendelian Randomizationの考え方は、私が人生で臨床研究者としてそのロジックの素晴らしさに一番ショックを受けた考え方である。 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ×