「診療報酬改定」をめぐる迷走と奇想

「ドラッグ・ラグ/ロス」解消に秘策あり!

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景:「本体以外」へのしわ寄せで「ドラッグ・ラグ/ロス」に

 2年に1度の年末の風物詩「診療報酬改定」をめぐる財務省と医師会の小競り合いが始まった。矮小化されたメディア報道によると、今回は過去にないガチンコ対決の様相...らしい。

 11月20日に財務大臣の諮問機関である財政制度審議会(財政審)は建議(意見書)を提出し、「収益状況が良い診療所(20床未満)の報酬単価を引き下げるべき」とマイナス改定を求めた。その根拠として、2022年度の診療所の経常利益率(もうけ具合)は8.8%で、国内の中小企業(全産業)の3.4%、さらには中小病院(200床未満)の4.3%とも、大きな隔たりがあることを挙げた。すなわち、「開業医だけがもうけ過ぎ」という指摘である。

 そして最後に「もうかっている診療所の収益を守るか、社会保険料や税金を抑えて国民勤労者の手取り収入を守るか、国民的な議論をお願いしたい」と世論に訴えた。ヘイトを煽る、共通の敵をつくるという、常套の政治手法である。

 財政審の想定通り、この開業医へのピンポイント攻撃に対して日本医師会(日医)の松本吉郎会長は早速2日後(22日)に記者会見で猛反発をした(関連記事「日医、財政審のマイナス改定方針に猛反発」)。曰く、「診療所の経常利益率には一過性の補助金(コロナ特例)が含まれている。新型コロナウイルス感染症への対応で頑張った医療従事者にとって心が折れる建議で極めて遺憾である」。

 しかし、この論法ではコロナ特例は経常利益率8.8%の診療所(20床未満)だけが受けていて、4.3%の中小病院(200床未満)はほとんど受けていないことになり、開業医だけがコロナ対応で頑張ってきたようにも聞こえる。このような浅慮な発言は開業医と勤務医の分断を煽って、医療界全体の弱体化につながりかねない。医療界の弱体化は、財務省だけでなく政府の思う壺である。日医がまずアピールすべきは「開業医の収益」ではなく、喫緊の社会課題である「看護補助職の賃上げ」でしょう。

 国民医療費は社会保険料が5割、公費負担(税金)が4割、患者負担が1割で賄っている。「看護補助職の賃上げ」のついでに「開業医の収益」、すなわち「本体部分」(医療従事者の人件費)も、「勤務医を含む国民勤労者の手取り収入」も守らなければならないとなると、患者負担を増やすしかない。生活保護受給者の自己負担も議論の俎上に上がるかもしれない。当然、ここにメスを入れた政党・政治家は選挙で瞬殺される。アンタッチャブルである。

 そこでいつものように「本体以外」にしわ寄せがくる。事実、最近の診療報酬改定においては、「本体部分」は8回連続でプラス改定が続いている一方で、「薬価」は毎年引き下げられており、今回も既にその方針が示されている。そして、この長年にわたる「薬価引き下げ」が、海外で承認された薬が日本では使えない「ドラッグ・ラグ」「ドラッグ・ロス」を加速させているという現状がある。

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