「PCIを本当に受けたか分からない」試験の意義

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研究の背景:安定狭心症に対するPCIの症状改善効果、厳密には不明

 心臓カテーテルによる経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は循環器内科を象徴する手技の1つといってよいだろう。1977年9月16日に心臓血管外科であるアンドレアス・グルンツィヒがスイスのチューリッヒで初めての経皮的冠動脈形成術を行い、1992年に初の冠動脈ステントが使用された。さらにその後、手技の成熟により急性心筋梗塞患者の生命予後はドラスティックに改善し、今なお急性心筋梗塞患者に対する治療の第一選択はPCIである。

 一方、冠動脈の物理的狭窄を解除するPCIは急性心筋梗塞だけでなく、同じ冠動脈の狭窄が原因で生じる安定狭心症の治療としても多く行われていることは循環器内科以外の先生もご存じかと思う。しかし、実はPCIが安定狭心症患者の死亡や心筋梗塞の発症を減らすエビデンスを示したランダム化比較試験はないことをご存じだろうか。そのため、現在安定狭心症患者にPCIを行う目的は主には「狭心症症状の改善」なのである。

 では、本当にPCIは狭心症患者において狭心症症状を改善しうるのか(もはや循環器内科以外の先生方にとっては「何を言っているのか?」というレベルかもしれないが、現在までの臨床研究データに基づくと、この疑問は成立し得たのである)。この疑問に関しては、これまでに幾つかの研究において狭心症患者の症状やQOL、運動可能時間を改善することが示されている(N Engl J Med 2008; 359: 677-687Ann Intern Med 2010;152: 370-379N Engl J Med1992; 236: 10-16)。だが、これらの知見は全て対象者および評価者が介入を受けたかどうか(つまり対象者がPCIを実際に受けたかどうか)について知らされた検討によるもので、その影響が排除できていなかった。ただこれは考え方によっては当たり前で、薬物治療であれば実薬の代わりにプラセボを投与すればよいが、PCIはいわば手術のようなものである。もし厳密にこの「PCIが狭心症患者において狭心症症状を改善するのか」という問いに答えようとすると、そのためには「患者が手術を受けたかどうかを患者自身すらも知らない状態」をつくり出す必要がある。そんなことは本当に可能なのか。もちろん多くの人が、これが臨床研究で検証できることの限界だろう、と考えていた。

末永 祐哉(まつえ ゆうや)

順天堂大学循環器内科学講座准教授。2005年鹿児島大学医学部卒業、その後亀田総合病院で初期研修医から循環器内科後期研修医、医長となるまで10年勤務し、2014年から18年までオランダ・フローニンゲン大学循環器内科でリサーチフェローとして心不全に関する臨床研究を行う。帰国した後は現職で心不全・心筋症の臨床および臨床研究に従事している。U-40心不全ネットワーク創立メンバー。

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