AmpC β-ラクタマーゼ産生腸内細菌目感染症治療戦略

どう考える?治療効果と薬剤耐性菌のトレードオフ

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

(© Adobe Stock ※画像はイメージです)

 薬剤耐性菌はとにかく厄介な存在だ。幸い、日本では海外ほど深刻な耐性菌問題は生じていない。特にグラム陰性菌の耐性菌は相対的にはマイルドな問題だ。

 日本で特に(頻度的に)問題になっているのは、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌とAmpC産生菌の問題だろう。

 両者に共通するのは「どうやって治療したらよいか、コンセンサスが得られていない」という点にある。前者ではカルバペネムが、後者ではセフェピムが堅牢な治療のオプションだが、こうした広域抗菌薬を使用するのが本当に適切なのか。僕も含めて懐疑的な専門家は多い。抗菌薬使用は治療効果と薬剤耐性菌のトレードオフの問題でもあるので、菌が死ねばよい、というわけではないのだ。適切なバランスが要求される。

 AmpC産生腸内細菌目(Enterobacterales)の多くは、いわゆる第三世代セフェム(3GC)に感受性を有している。が、3GCを単剤で使用していると、AmpCの脱抑制(derepression)が起きて大量のβ-ラクタマーゼを産生することがある。これが治療失敗の原因となるのだ。だから、AmpCに加水分解されない安定な第四世代セフェム、セフェピムが「堅牢」な選択肢となる。

 とはいえ、腸内細菌目といっしょくたにまとめてはダメで、突然変異による脱抑制の起きやすさは菌ごとに異なる。特に起きやすいのがEnterobacter cloacaeKlebsiella (Enterobacter) aerogenesCitrobacter freundiiなどだ。他方、Serratia marcescensMorganella morganiiなどは脱抑制が起きにくい。

 本研究は、こうした菌ごとのAmpC脱抑制と治療の関連を調べたものだ。

岩田 健太郎(いわた けんたろう)

岩田氏

1971年、島根県生まれ。島根医科大学卒業後、沖縄県立中部病院、コロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院、アルバートアインシュタイン医科大学ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学大学院医学研究科教授(微生物感染症学講座感染治療学分野)・神戸大学医学部付属病院感染症内科診療科長。 著書に『悪魔の味方 — 米国医療の現場から』『感染症は実在しない — 構造構成的感染症学』など、編著に『診断のゲシュタルトとデギュスタシオン』『医療につける薬 — 内田樹・鷲田清一に聞く』など多数。

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