生涯にわたるエネルギー、主栄養素のガイダンス(総説)NEJM,Apr.11, 2024 Guidance on Energy and Macronutrients across the Life Span(Review Article)

付けたり:地中海食、雨 ニモマケズ、孤独のサバイバー、三内丸山の栗、父のシベリア抑留、 密告監視社会ソビエト、ベルリン秘密警察博物館、ドイツ連邦憲法、東独のスポーツ栄養学、レニングラード包囲戦、タカ号漂流記、人類の出アフリカ

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

 2024年6月より、厚生労働省の方針で、外来で高血圧、糖尿病、高脂血症の場合、生活習慣病療養計画書を作ることになりました。

 N Engl J Med2024 Apr 11; 390: 1299-1310)に「生涯にわたるエネルギー、主栄養素のガイダンス」という栄養学の総説がありました。世界最新の栄養学の知識でわくわくしながら読み、まとめました。ただ、生化学の知識がないとごく皮相的なことしかわからないので追加説明を付けました。特にスポーツ栄養学に関心のある方には非常に興味深いと思います。

 生活習慣病療養計画書を作るだけなら、以下の最初の2ページ程を読めば十分です。著者はカナダの肥満、エネルギーバランスの専門医と登録栄養士(R.D.N:Registered Dietitian Nutritionist)です。

 最大のポイントは健康的食事として推奨するのは、野菜、フルーツ、全粒穀物(玄米、茶色のパン)、低脂肪乳、lean meats(脂肪の少ない肉、皮なしの鶏肉など)、卵、魚介、大豆、豆、ナッツ、種(seeds)、植物油、魚油などで、これらの摂取によりコレステロールが減り心血管疾患リスクが減少します。また食物繊維は全く吸収されませんが血糖上昇を緩やかにします

 特に避けるべきは赤い肉(牛、豚)、加工肉(最悪はハム、ソーセージ、ベーコン、ハンバーガーなどの精製肉で大腸がんも増加)、高脂肪乳製品(high fat dairy)、精製炭水化物(白パン、白米、パスタ、菓子、砂糖飲料)、スィーツなどです。これらを避けることにより「全死亡率の低い」健康的食事となります。14歳以上では慢性疾患減少のためNa摂取は2.3g(食塩5.8g)/日以下です。これ以上は高血圧、心血管疾患リスクとなります。

 また飽和脂肪酸(固形油のバター、ショートケーキ)やトランス脂肪酸(工業的に水素添加で作るマーガリンなど)を避けます。驚くことに米国ではマーガリンなどの食用のトランス脂肪酸(二重結合を挟んだ炭素に結合する水素原子がそれぞれ反対側にある。シス脂肪酸は同じ側)の製造は2018年に禁止されました。日本国内では禁止されていません。

 N Engl J Med(2024 Apr 11; 390: 1299-1310)の「生涯にわたるエネルギー、主栄養素のガイダンス」最重要点は下記11点です。長文ですので必要な章だけお読みください。生活習慣病療養計画書を作るだけなら最初の2ページほど読めば十分です。

  1. 推奨は野菜、フルーツ、全粒穀物、低脂肪乳、lean meats(脂肪なし)、卵、魚介、豆、ナッツ、植物油、魚油
  2. 降圧に減塩、減量かつ地中海食有効。果物・野菜のK↑で降圧(ポタシウムスイッチ)
  3. 避けよ:牛、豚、加工肉、高脂肪乳、精製炭水化物、スイーツ、飽和/トランス脂肪。酒:男<2、女<1drink
  4. 瞬発運動は筋クレアチンリン酸で、短距離は嫌気的解糖、長距離はTCAサイクルでエネルギー得る
  5. 蛋白・炭水化物1g 4kcal、脂肪1g 9kcal。脂肪はβ酸化しアセチルCoAをTCAでATPに
  6. 不飽和脂肪酸は二重結合あり植物由来で液体、飽和脂肪酸は動物由来で固体でLDL↑
  7. 植物油から工業的にマーガリンなどのトランス脂肪酸ができLDL↑。極力、不飽和脂肪酸摂取を
  8. 糖原性アミノ酸かケト原性アミノ酸から解糖・TCAでATP産生。NH3は尿素回路で無毒化
  9. 食物繊維は消化不能だが便通、血糖改善、Tch↓、BP↓、心血管・非伝染性疾患↓
  10. 水を飲まなくてもグルコース、 脂肪酸、蛋白質から代謝水約300mLができ尿となる
  11. 外傷でミトコンドリアは内なる敵(enemies within)で細菌同様全身炎症、凝固障害起こす

1. 推奨は野菜、フルーツ、全粒穀物、低脂肪乳、lean meats(脂肪なし)、卵、魚介、豆、ナッツ、植物油、魚油

 マクロ栄養素(macronutrients)とは炭水化物、蛋白、脂肪のことです。これに対しミクロ栄養素(micronutrients)はビタミンやミネラルのことです。

 成人でのマクロ栄養素の許容範囲(The Acceptable Macronutrient Distribution Ranges)は総摂取カロリー中、蛋白10~35%、脂肪20~35%、炭水化物45~65%です。 炭水化物がこれを下回った場合の疾患発生についてははっきりしません。

 1995年頃 DASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)study という有名な 高血圧の食事療法のトライアルがありましたが、本日のN Engl J Med、栄養学総説の推奨はほぼこれと同じ内容でした。DASH dietは地中海式食事とほぼ同じです。

【健康的食事パターンの選択】
 極力摂取すべきは、あらゆる種類の野菜、フルーツ、とくに全果物(ジュースでなく果物全体、つまり果皮、果肉、種などを含む:繊維多く血糖上昇が緩やかに)、全粒穀物(穀物の最低半分は全粒穀物に、即ち玄米や茶色のパンで血糖上昇緩やかに)、無脂肪または低脂肪乳製品、lean meats(脂肪を除いた肉、皮なしの鶏肉)、卵、魚介類、豆、ナッツ、植物油または魚油などです。
 小生の家では10年以上、全粒穀物、即ちパンは白パンでなく茶色のパンに、ごはんは玄米にしております。バターは10年以上使っていません。オリーブ油が中心です。家内とスペインに行った時、スーパーのオリーブ油コーナーに物凄い数のオリーブ油が並んでいるのにたまげました。最高級品をエキストラ・バージンオイルと言いパンに付けるとおいしいのです。
 宮沢賢治の「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」に「一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲ食ベ」とあるので、玄米ってなにか悲惨な食事かと思っていましたが、慣れれば別にどうということもありません。和食は地中海式食事に非常に近いですから、減塩さえすれば理想的と小生は思っております

 正常の状態でニューロン(神経細胞)と赤血球はエネルギー源としてブドウ糖に頼ります。1歳から生涯に亘る炭水化物の必要量は脳でのブドウ糖の必要量で決まります。

 アマゾンプライムで「Alone、孤独のサバイバー」という米国のテレビ番組があります。 秋から冬にかけて無人島など(カナダ・バンクーバー島や、アルゼンチン・パタゴニア)で限られた道具を 10 選択して、できるだけ長く一人だけで生き残るサバイバルコンテストです。 火を起こすにライターやマッチは使えません。賞金は出場者 10 人で最後まで耐えた 1 人に 50 万ドル(1 ドル152.99 円として 7,640万円)です。脱落は無線でいつでも可能です。皆どんなに長くても 2~3 カ月で終了していました。体重が2/3になった者もいます。

 太古、人類が一体どのようにして生き延びてきたのか、自力で食物を得るのに何が問題なのかがよくわかり非常に興味深く見ました。火打石をなくした者は数日で脱落です。

 食物を得るのには秋の初めなら木の実がありますが、とりあえず貝、海藻、魚です。釣り針を作ることができれば魚を得ることができます。蛋白質を得るのに一番楽なのは刺し網(網を海岸に縦に立てて前進しかできぬ魚を捉える)です。しかし魚は毎日取れるわけではないし取れすぎても保存ができません。一方、動物から蛋白を得るのは至難の技です。動物自体少ないし、すばしこいので狩りなんてできません。

 そして問題は炭水化物です。摂ることが全く不可能なのです。私たちが当たり前に食べている米、麦、ジャガイモ、トウモロコシに人類がたどりつくのが、いかに困難で膨大な年月がかかったのかがよく分かりました。また定住する主な理由は穀物の栽培により炭水化物をエネルギーとして確保するためなのだなあと改めて思いました。

 三内丸山遺跡では 5,500 年前から人が住み始めましたが、発掘で栗の花粉がたくさん見つかっています。最大人口は 200 人で 村は 1,500 年続いたと推定されています。竪穴住居の柱も腐食しにくい栗の木が使われ、発見された材木のなんと 8 割が栗なのです。栗の木の遺伝子を調べたところ同じ遺伝子型でばらつきが少なく、縄文時代人が長い年月、自分で栗を植え、食料としていたことがわかりました。栗の実も現在の野生の栗よりも大きく、選抜して育成したことがわかります。栗をクッキー状にして焼けば(縄文クッキー)年間の保存食になります。

 小生の父は中国東北部(旧満州)の国民高等学校で教員をやっておりましたが、終戦時、陸軍二等兵として応召されて敗戦となりシベリアのバルハシ湖畔のコウンラード鉱山の捕虜収容所にいました。帰国してから詳細な手記を残してくれました。手書きの地図がありグーグルアースと比較して収容所の位置も大体わかりました。グーグルでバルハシ湖畔を見ると実に荒涼としたところで露天掘りの銅、モリブデン鉱山があります。コーカサスのチェチェン人や沿海州の朝鮮人もここに強制移住、労働させられていたとのことです。

 収容所では、ロシアパン(ライムギパン)は一人一日昼食に350g(868kcal)ということになっていましたが、当初は軍隊の階級組織がそのまま残り、肉体労働をしない将校、下士官の中間搾取で大幅に下回りました。

 朝夕の主食は飯盒の蓋に7分目の粥でその中身はトウモロコシ、大豆、片栗粉で重湯のようなものでした。スープは飯盒に1/3位で中に酸っぱいキュウリの漬物とヤギ肉(蛋白質)の切れ端が2~3切れで肉ゼロのこともありました。しかしスープの水がガソリン臭くて皆激しい下痢に悩んだとのことです。このような食事が来る日も来る日も続いたのです。

 まもなく皆、顔や下腿が低アルブミンでむくみ始めました。約60万人の日本兵が捕虜となり1割が栄養失調で死亡しています。しかし兵隊たちが栄養失調で倒れて作業に出られなくなると下士官が、次いで将校が重労働をせざるを得なくなって結局皆で栄養失調となり、2年目位からは皆が平等で作業、食事分配をするようになりました。

 このN Engl J Med総説によると健康若年成人は蛋白を0.55~0.6g/kg/日摂取で窒素バランスをneutralに保つことができます。蛋白が0.4~0.5g/kg/日以下になると筋萎縮を起こします

 Digestible amino acid score(DIAAS)は、蛋白質の質の評価法であり、消化吸収率を考慮に入れヒトのアミノ酸と窒素の要求にどの程度貢献するかを測定します。牛乳、牛肉、卵のスコアが最も高く1以上で、大豆は0.9でアミノ酸源として有益です。

 蛋白質の18歳以上での推奨1日摂取量(RDA、recommended dietary allowance)は0.8g/kg/日と安全マージンを見込んでいます。幼児や小児では蛋白必要量は成長を促進するため多く、妊娠期、授乳期も多くなります。運動選手、老人、肥満者でdietしている場合は蛋白摂取が必要です。

 蛋白摂取の上限は3.5g/kg/日で、2g以上の摂取が長期間続くと副作用があります。 3歳以上で全摂取カロリー中、蛋白の割合をAMDR(acceptable macronutrient distribution range)では10~35%としています。

 米国で2015~2018年、米国で1歳以上の6%は蛋白摂取量が少なく、特に71歳以上、ヒスパニック系黒人で少ないようです。

 蛋白摂取を増やすことは単純ではありません。欧米人は蛋白はサンドイッチやキャセロール料理(casseroles:厚手の鍋で調理するグラタンのようなもの)などで摂取されどうしても飽和脂肪や塩分が多くなります。なお蛋白を植物のみで摂取する場合、ビタミンB12、ビタミンD、カルシウム、鉄分、亜鉛、ヨード不足に注意が必要です。

 ソビエトは凄まじい密告社会で、お互いの監視、密告が奨励されました。ある日、父は真夜中に呼び出され、収容所幹部から吉田内閣打倒、天皇制打倒の論文を書けと強要されました。「異国にあって祖国の悪口は言わない」と拒否したところそのまま営倉に1週間入れられ食事、水とも一切与えられませんでした。幸い夏だったので寒くはなく深夜、戦友たちがこっそり食事を差し入れてくれて生還できました。

 小生2017年に家内とベルリンのStasi Museumを訪ねました。東ドイツが旧社会主義国だった頃の国家保安部(Stasi:Staatsicherheit、秘密警察)本部が現在博物館になっているのです。東ドイツ政府は1953年の生活物資欠乏、給料カット、弾圧に抵抗する国内700都市の民衆蜂起に懲りてソビエトに倣って民衆の監視、密告制度を開始しました。

 東ドイツは常に西側の資本主義、帝国主義の敵にさらされており国家の敵(Feind)を見つけなければならないというのです。プーチンは旧ソビエトのKGB(国家保安委員会)職員で東ドイツのドレスデンに派遣されていましたからこのStasi本部にも頻回に出入りしていたのでしょう。Stasiには9万人が勤務し、それに協力する密告者18万人がおりStasi支部は全国に張り巡らされていました。

 実際に使われていた様々な盗聴器具(wire tapping)、隠し撮りの小型カメラが展示されていました。水を撒くじょうろの底に隠しカメラが仕掛けられていて取っ手にスイッチがあります。これを持って目の前を通られてもまさか写真を撮られたとは思いません。 こんなことは007のようなスパイ映画の作り事と思っていましたが、実際に行われていたことに驚きました。盗聴マイクは特にコンセントに仕掛けると電池がいらなくて便利でした。

 東ドイツ崩壊(1989年)後17年経った2006年、家の修理中にドアの中から見つかったという盗聴マイクもドアごと展示されていました。密告者の誕生日にはチョコレート、ウィスキー、花などがプレゼントされ忠誠心を高めました。要注意人物ともなると分厚いファイルが作られ展示されていました。旧社会主義国は恐るべき監視密告社会だったのです。

 ベルリンの国会議事堂(Reichstag)を訪ねたのですが、この外にドイツ連邦の憲法がガラス板に彫られていました。曰く第1条Artikel 1:Die Würde des Menschen ist unantastbar. Sie zu achten und zu schützen ist Verpflichtung aller staatlichen Gewalt. 即ち「人間の尊厳は冒すことができない。これを尊重し守ることは国家権力(シュタートリヒェン・ゲバルト)の義務である」とあり、日本人からしたら、何を当たり前のことをと思いますが、社会主義を実際に経験した人たちにとっては、心の底から感動する条文なんだろうなあとしみじみ思いました。

 小生が小さかった頃、父は東京へ行くといつも黒いライムギのロシアパンをおみやげに買ってきて酸っぱくておいしいなあと思っておりました。最近、ネット通販でリトアニアの黒パンを見つけて懐かしく食べております。同じ味でした。

 下記はUSDA(米国農務省)による「米国の健康的食事のサイト」です。

 MyPlate (U.S. Department of Agriculture)

 まず自分の食事パターンを入力すると健康的か否か評価されMy Plateのアプリをダウンロードしてスタートします。ちょっと面倒ですが5食品(果物、野菜、穀物、蛋白、乳製品)とレシピ、エネルギー量、マクロ栄養素含量を教えてくれます。

 まとめますと健康的食事として推奨は野菜、フルーツ、全粒穀物、低脂肪乳、lean meats(脂肪なし)、卵、魚介、豆、ナッツ、植物油、魚油です

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