精神疾患を装う「プロ患者」を見抜けるか?

客観的指標導入の可能性

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景:「だまされる医師の方が正しい」現実が製薬会社には悩みの種

 米国では、治験への参加謝礼を目的に精神疾患を装って治験に参加する、いわゆる「プロ患者」が存在するといわれている。こうした「プロ患者」は、複数の治験に同時期に参加している場合もあるという。「プロ患者」が紛れ込むと、治験データの信頼性は揺らぎ、有効なはずの薬の有効性が証明できなくなり、開発に当たっている製薬会社は大きな損害を被ってしまう。そのため、製薬会社や治験の受託機関(医薬品開発業務受託機関:CRO)は、さまざまな工夫を行っているが、こうした問題はいまだ解決していない。

 そもそも、精神科医が精神疾患を装う人を見抜けるかどうかであるが、一般臨床ではクライアントが精神疾患患者を装っている可能性を疑っていたら、本当の患者の精神療法に差し支えてしまうため、性善説で診療しているというほかない。もし障害年金欲しさ、傷病手当金欲しさに精神疾患を装っている人がいたとしても、完璧な演技であったら、見抜けないと思う。

 そもそも、「完璧な演技をしている精神疾患患者を見抜けるのが名医なのか?」という疑問さえある。一般の人は、「そこを見抜けるのが名医だろう!」と思われるであろうが、少なくとも操作的診断基準に基づいた構造化面接による診断においては、「装っているのでは?」などという私情を交えることなく、客観的に判断しなければならないので、「あやしいな」などと思って診断を変える方が問題、ということになってしまう。

 すなわち、もし患者が精神疾患を装っていたら、「その通りにだまされる医師の方が正しい」というのが現状ではないだろうか。

 しかし、製薬会社としては、治験に莫大な投資をしているのであるから、性善説、などという悠長なことは言っていられない。そこで、本当にその治験の対象疾患を有しているのかどうかを、精神科医の判断を介さず、客観的に判断する方法を常に開発しようとしている。

 今回取り上げる研究は客観的な指標として、「応答潜時」を臨床試験に用いる可能性について検証したものである(Psychiatry Res 2024; 340: 116105)。

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