ハンセン病が8週間で治る時代に

新たな治療戦略ベダキリン単剤治療

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

(© Adobe Stock ※画像はイメージです)

 

研究の背景:世界で毎年20万人以上が発生、副作用と薬剤耐性菌が問題に 

 恥ずかしながら、というべきか、医者になってからハンセン病(Leprosy)患者を診たことがない。学生時代に東村山の「療養所」(国立療養所多磨全生園)とフィリピンでの診療現場を見学しただけだ。ここ数年、日本での新規ハンセン病患者は外国人患者を含めても年間10例に満たない。しかし、世界では120カ国以上で毎年20万人以上の患者が発生している。2019年のデータによると、特に多いのがブラジル、インド、そしてインドネシアで新規患者は年間1万人以上だ(WHO ファクトシート「ハンセン病」)。

 ハンセン病の起因菌であるMycobacterium lepraeM. leprae)は比較的低い温度を好む。指や鼻といった末梢部位に病変をつくり、皮膚や末梢神経に障害を起こして外観に影響を与えるのが特徴だ。そのことが災いして、患者は国内外で非道な差別の対象となってきた。日本では長年、非科学的な隔離政策が推奨され「療養所」での生活を強いられてきた。「らい予防法」は日本の公衆衛生史の中でも最悪の黒歴史であり、感染症に携わる者であれば必ず学ばねばならない(厚生労働省「ハンセン病問題を正しく伝えるために(PDF)」)。もし読者に未見の方がいたのなら、映画「砂の器」は必ず観てほしい。

 ハンセン病は菌量が少ない病態〔paucibacillary leprosy(PB)型:Ridley-Jopling分類でいうところのTT型やBT型など〕と多い病態〔multibacillary leprosy(MB)型:同LL型、BL型、BB型など〕に分類され、治療薬や治療期間がWHOから推奨されている。いずれもジアフェニルスルホン+リファンピシン+クロファジミンの3剤併用で、MB型の場合は12カ月間、PB型の場合は6カ月間継続する(国立感染症研究所 ハンセン病とは)。

 しかし、どの抗菌薬も比較的副作用が多く、また薬剤耐性菌も問題になっている。このことが、新しい治療法が望まれる所以である。

 そこで、ハンセン病の新しい治療法が模索されている。用いるのは多剤耐性結核に用いられる抗結核薬ベダキリンだ。M. lepraeも結核菌(M. tuberculosis)同様、抗酸菌の一種であり、ベダキリンは抗酸菌のATP合成酵素を阻害するというユニークな薬理作用を持つジアリルキノリン系薬だ。日本でも承認されている(商品名サチュロ)が、幸か不幸か日本では多剤耐性結核(MDRTB)はまれで、僕も使ったことはない。同薬は、動物実験ではM. lepraeに対する活性があることが分かっており、リファンピシンよりも抗菌活性が高い。

Chauffour A, et al. Minimal effective dose of bedaquiline administered orally and activity of a long acting formulation of bedaquiline in the murine model of leprosy. PLoS Negl Trop Dis 2023; 17:e0011379.

 今回紹介する論文は、未治療のハンセン病(MB型)を対象にベダキリン8週間治療の臨床的意義を検討した第Ⅱ相オープンラベル研究で、概念実証(proof of concept)が目標である。

Barreto J, et al. Bedaquiline Monotherapy for Multibacillary Leprosy. N Engl J Med 2024; 391:2212-2218.

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