【私が選んだ医学2024年の3大ニュース】 1. AIが臨床データからがん治療の予測因子を発見 免疫チェックポイント阻害薬は、がん治療において画期的な進展を遂げたものの、その効果は患者ごとに大きく異なることが明らかとなっている。このため、どの患者がこの治療の恩恵を受けられるかを正確に予測するツールの開発が求められてきた。2024年は、このニーズに応えるべく、人工知能(AI)が従来にない手法で治療効果の予測因子を特定した年だった。 米国立がん研究所(NCI)のEytan Ruppin氏とメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのLuc Morris氏が率いる研究チームは、18種類の固形がん患者2,880人以上のデータを分析し、治療効果を予測するための要因を探る大規模な研究を行った(Nat Cancer 2024; 5: 1158-1175)。研究では、臨床現場で日常的に収集されるデータを基に、AIを活用してどの特徴の組み合わせが最も治療反応性を予測できるかを解析した結果、新たな予測モデル「LORIS(Logistic Regression-based Immunotherapy-response Score)」が生まれた。 従来、免疫療法の感受性を予測するには、複雑で高コストなバイオマーカー検査が必要だったが、LORISは、患者の年齢、がん種、治療歴、血中アルブミン値、好中球とリンパ球の比率(Neutrophil-to-Lymphocyte Ratio:NLR)、腫瘍の変異負荷の6つの変数のみを用いることで、高精度に免疫チェックポイント阻害薬の感受性や予後を予測できる。LORISの詳細はLORIS公式サイトで確認でき、実際に使用可能である。 この研究結果は2024年6月にNature Cancerに発表され、LORISは多くのがん種において、患者の客観的反応と短期・長期生存を一貫して予測し、他の高額なバイオマーカーを用いた予測モデルを凌駕する性能を示した。さらに、トレーニングデータには含まれていなかった中枢神経腫瘍や原発不明がんのようながんタイプに対しても優れた予測能力を発揮した。 本研究の意義は、われわれが普段何気なく使用している臨床情報の中に、まだ見過ごされている価値が隠れていることを示している。膨大な未整理データを瞬時に解析し、有意義な洞察を引き出す能力は、生成AIの得意とするところである。LORISの発見は、AIが今後も新たなツールや治療法を次々と創出する可能性を示唆している。