【私が選んだ医学2024年の3大ニュース】 資本主義は一定の範囲内での「格差」を認める上で成立している。しかしながら、命や健康を扱う医療においてそれは「最小限であるべき」というのが国際的コンセンサスである。ところが、日本に至っては「医療格差は1mmもあってはいけない」という妄想が存在し、ナントそれが何十年にもわたって実現してきたという「奇跡」が起こっている。2024年は、この「奇跡」の綻びが目立ってきた年であった。 1. 改悪だった医師の働き方改革:真の改革には「医師の職業価値向上」と「国家資格NP」が必要 かつて、ヒラリー・クリントンが米国の医療制度改革を目指して日本の視察に訪れた際、勤務医が低報酬で過重労働を黙々と行う姿を見て「聖職者さながらの自己犠牲。クレイジーだ」と評した。彼女は、米国の医師には日本の勤務医のような「働き方」は不可能と判断して、日本と同様の保険制度を米国に導入することを諦めた。 彼女が瞬時に「不可能」と判断した「働き方」が長年にわたって「可能」とされてきた日本で、2024年4月「医師の働き方改革」が施行された(関連記事「"医師の働き方改革"を邪魔する懲りない面々」)。しかしながら、中身はというと、過重労働を見えなくする「隠れ宿日直」、「自己研鑽」という名のタダ働き...姑息な小手先の帳尻合わせのオンパレードである。現場から「働き方改悪」の悲鳴が上がるのは当然だろう(関連記事「一専攻医が明かす"働き方改革"の違和感」)。ナンなら、8月のMedical Tribuneウェブのリニューアルよりも「改悪」かも知れない。 私は、医師の働き方を根本的に改革するには、「医師の職業価値の向上」が必須だと思っている。医師の職務を高い専門性、それに見合った報酬のものに限定すべきである。医学部を減らして超難関にして、医師を少数精鋭にして、能力に見合った診療報酬の引き上げに舵を切るべきである。そのためには、医療全体の中で適切なタスクシフトを行う必要がある。 最も効率的なタスクシフトは「国家資格としての診療看護師(ナース・プラクティショナー:NP)の創設」と考える。この国家資格NPは、看護師の権限の拡大を国が法制化するもので、医師がいなくても自己責任で一般的な傷病の診断と治療を行うことができる。欧米など海外先進国では古くから導入されていて、地域医療に大きく貢献している。 今の日本の開業医が行っている医療のかなりの部分は、看護師の中のエリート集団であるNPなら代行可能である。開業NPと開業医とが切磋琢磨して競い合えば、公的保険での薬漬け医療をダラダラやって稼いでいる一部の開業医は淘汰され、日本のプライマリケアも在宅医療も質・量ともに向上するだろう。医師は専門性も診療報酬も高い医療に専念できるはずである。 日本でも内閣府規制改革推進会議において、国家資格NPを推進すべきという意見が出ているが、例によって日本医師会が「開業医の既得権益を脅かすものは排除する」というお約束の条件反射で反対している(関連記事「日医など5団体、在宅医療のNP創設に反対」)。 しかし、今の日医に抑止力になるほどの力があるとは思えない。国家資格NPの主たる障害になっているのは、実は「日本看護協会」である。理由は全く不明である。あくまで私の印象であるが、幹部が新しいことをするのを面倒臭がっているとしか思えない。 強欲な医師会と怠惰な看護協会の下では、勤務医の「自己犠牲によるクレイジーな働き方」は改革されそうにない。