若手医師が感じるやりづらさって?

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 現役の整形外科医として勤務する傍ら、医師専用スライド共有サービス「Antaa Slide(https://slide.antaa.jp)」等を運営する「アンター株式会社」の代表である中山俊氏。その経歴から将来の進路に悩む研修医や医学生からの相談を受けることも多い中山氏に、医師が今後のキャリアパスを描く上でのヒントを伺った。

お話を伺った方
アンター株式会社 代表取締役 CEO
中山 俊(なかやま しゅん)氏
鹿児島県出身。鹿児島大学医学部を卒業後、2011年国立病院機構東京医療センター初期研修医。成田赤十字病院整形外科、翠明会山王病院整形外科を経て2016年アンター株式会社を設立。東京科学大学客員准教授
https://corp.antaa.jp/

若手医師が抱えるプレッシャーと医療現場の課題

ーー今回は若手ドクターの悩みや今の医療現場のやりにくさといった部分にフォーカスしてお話を伺っていきたいと思います。実際、先生の研修医時代はどうでしたか?

 私自身の研修医時代というと、もう12年・13年前になるんですが、医師としての現場経験を積むという側面から、色んな科を周るということがすごく大事なこととされていました。実際、産婦人科だったのが突然翌月には小児科を周り、翌月は循環器科へ行き...、各診療科をたくさん周ると毎回新鮮なんですよ。

 知識として国家試験レベルのことは頭に入っていても、現場経験が無いっていうのはすごく難しくてですね...。上の先生ともコミュニケーションを取らないといけないですし、勿論、患者さんとも色々な診療をチームでやっていくので、上の先生に「あの患者さんはどうでした」というようにプレゼンしなければいけないわけですが、その時に国師の知識だけではプレゼンができないんです(苦笑)。

 それはなぜかというと、「検査値がどうでした」とか「患者さんのご家族がこういうことを言っています」というように、こういうことが起きているということから、見逃してはいけない疾患というところまでは分かったとしても、じゃあ何をしたらいいのか?何が今必要なのか?というのは経験してみないと結構分からないもので、経験が無いことから来るストレスを当時は抱えながら過ごしていたということを覚えています。

――中山先生の時は、そういう状況の時、どうやって対処していましたか?誰かに聞かないといけないですもんね。

 大きく方法が2つあったと思っていて、一つ目はマニュアル本など色々な本を沢山持って机に用意していたり、薄いメモ帳に書いてポケットに入れて沢山ファイリングしていました。

もう一つは、私がいた研修病院は、研修医1年目と2年目の先生がいたのですが、1年目の時はとりあえず分からないことは2年目の先生に聞いて、2年目の先生に教えてもらったことを念頭に置いて本を読むことで、「なるほど、こういうことだったんだ」というように、理解しやすかったことを覚えています。

ーー色々な科をまわって研修するというのは、緊張するでしょうし、すごく大変な時期だろうなと思います。例えば上の先生に「この検査値どうだった?」って聞かれた時に、普通なら「数値はいくつでした」と答えるところを慌ててしまって「ちゃんとできました!」みたいに答えてしまったという話を聞いたことがあります。

 そうですね、その気持ちはすごく分かります(笑)。電子カルテに書くのってSOAPと言われるんですが、研修医になってからそれぞれの患者さんが言っていることと検査データをアセスメントしてプランを考えていくというのは、いきなり学生から医者になったからと言って瞬間的にできるようになることではないと思います。

私のいた研修病院では、それを初期研修で色々な診療科をまわる期間の中で、自分なりに解釈して、経験を積んでいき、毎回その科をまわった最後に、学んだことや一症例・一疾患を題材にプレゼンするというようなことをやっていました。

毎回月に1回やるので、1ヶ月その科をまわるとなると、1週目はその科に慣れるのに精一杯で、2週目は少しずつ患者さんをキャッチアップし始めて、3週目にはもうパワーポイントの資料を作ったりプレゼンの準備をし始めないといけないというような感じです。ずっとそれを繰り返してきたんですが、プレゼンの為に作ったスライドとか、その科をまわった先輩方の色々な経験や知識をまとめた資料のようなものが、今思うと財産だったんだろうなと思います。

ーーやはりプレゼンはすごく大変ですか?初期研修医の3割ぐらいの先生がそれこそ鬱にようになってしまうという話も伺ったことがありますし、その辺りを上級医の先生方が上手くフォローしていかなければなりませんし、すごく大変なところもあるかと思います。

 私がやっているアンターでは、「アンタースライド」というスライド共有のサービスがあります。色々な先生方がスライドを投稿して共有できるサービスなのですが、その中で鬱に関することを書いてくださっている先生がいらっしゃいました。その先生は研修時代にしんどくなって鬱になってしまったというような内容だったんですが、「自分はできる!」と思って現場に挑んだものの、実際はできていないことを感じてしまうことが焦りにつながって疲弊してしまったということでした。理想の自分になかなか近づけなくて、潰されていく人が多いっていうのがまず一つだと思います。

 もう一つは、シンプルに労働時間が長く、疲れてしんどくなっていくパターンです。どちらもよく見られるパターンですが、昨今の働き方改革によって、研修医の労働時間というのは守られるようになってきているのではないかと思います。私の研修医時代は、院内に寮がありいつでもピッチが届く、24時間コールがかかってくるような環境だったので、働いているのか休んでいるのか、寝ているのか仕事しているのか、分からなくなってしまうようなタイミングも結構ありました。

 今はだいぶ変わってきているので、体力的な負担で鬱になるというよりも、自分の理想とか上級医が求めている理想に自分が近づけていない気がして、心理的な理由でしんどくなってしまうというケースの方が多いんじゃないかなと思いますね。

働き方改革は教える機会・教わる機会の減少につながる?

ーー働き方改革というところで私が個人的に思うのは、きっちりと時間で区切って体力的なしんどさが軽減されることは非常に素晴らしいことだと思う反面、医師の方々は日々勉強していらっしゃいますし、患者はどこかドクターに対してある種完璧な存在のような理想を抱いてしまってるところがあるかと思います。なので、若手の先生方も当然、知識をどんどん身に付けていかなくてはいけないわけですが、ある意味忙しいながらも、先輩にすぐ聞ける体制があったりして、どんどん経験や知識が溜まっていく環境というのが、もしかしたら自然に形成されていたのではないかと。逆に、今は「もう今日はお終いですので帰ってください」となると、なかなかそれが難しくなってしまうのではと想像できます。若手の先生方からすると「どうやって勉強すればいいんだろう?」「誰に聞けばいいんだろう?」と感じることもあるでしょうし。

 色々なところで、上の先生が後輩に教えるという場面はあります。研修医の中でも後期研修医が教えるとか、指導医が初期研修医に教えるというケースもありますし、色んな関係性があるんですが、弊社が提供している「アンタースライド」でも、レクチャー用のスライドというのを結構皆さん投稿してくださっていて、レクチャーを受けるということには、リアルタイムでのレクチャーも勿論ありますが、オンデマンドでいつでも困った時に見ることができるという形も割と大事だと思っています。

 院内で働いていると、上の先生が突然呼ばれてしまってレクチャーが飛んでしまうということもありますし、聞きたかったけれど研修医側が外来のお手伝いやオペのお手伝いに入ってほしいと依頼があり、参加できないケースというのも往々にしてあると思います。

 さらに言うと、この病院にいるからこそ聞けるレクチャーというのもあると思いますが、様々な理由でレクチャーを受けられない人たちがいる中で「教える人の思いがちゃんと伝わればいいな」「学びたい人が学べる環境になればいいな」みたいな部分を、アンタースライドというサービスのプラットフォームを通して、教える人と学ぶ人、それぞれを上手くマッチングさせていければいいなと考えています。また、投稿する先生方にとっては、教えるということへのモチベーションにもなりますし、あとは採用にもつながると思います。

 病院の先生の知名度を上げることで後期研修医や常勤医を採用したいという時に、「この先生が働いている病院だと、こういうのがレクチャーを受けれるのかもしれない」「こういう人がいるんだな」と思っていただけるきっかけにはなるかと思っています。

ーーありがとうございます。お話を聞いていて、病院の方が発信の場として活用されるというのは今後ますます増えるような気がします。働き方改革で、ひと昔前だと初期研修を受けるときに、病院ごとに「ここは体力勝負」とか「こっちはゆったりやって大丈夫」というように方針に結構大きな差があったと思うのですが、働き方改革でその差が縮まってくるので、病院側もどのように特徴を出していくべきか悩むようになるのではないでしょうか。

 その通りだと思います。難しいですよね。以前は教えたい先生がたくさんいる病院だからこそ学べたという側面もあると思います。そういう環境で学びたいという方は、時間を気にせずたくさん学べることがそのまま成長に繋がっていたと思うのですが、今は院内に滞在できる時間の上限というのが決まっているので、教えたい先生はたくさんいても教わる側の時間に限界があるわけです。

 そうすると何が起きるかというと、もちろん研修医や若い先生は取捨選択するわけです。今まで教える側は、ここにいる研修医や若手の先生というのは教えていい相手だから好きなだけ教えようとしてたんですけど、今は「院内でレクチャーします」と言っても、全然人が来ないという状況も生まれてくるわけで、そうなると教える側のモチベーションはどんどん下がってしまいますよね。

 勿論、求められるものを伝えるということも大事ですが、「教えたい」という思いはとても大事なものだと思っているので、医学部の部活文化や上下関係というような良い文化が徐々に断絶していくというのは勿体ないな...と感じます。

ーーそうですよね。私も初期研修を終えられた先生方やベテランの先生方からも色々なお話を聞きますが、やはりどの先生も共通して「初期研修の時期が一番忙しくて、一番濃密だった」と仰います。初期研修の先生方って、そこで初めてその科目のことを学ばれるので、凄く強い印象を受けられるんでしょうね。初期研修の2年間をさらっと終わらせてしまうというのはもったいないことだと思う一方、働き方改革というところで「もう帰りなさい」とも言われてしまうわけで、今は色々と大変な環境なのかなと。

 本当に大変だと思います。私が初めてこのランチタイム勉強会に出演させていただいたときに色々な先生方がアンケート回答をしてくださっていたのですが、その中で「猛烈に働くのが当たり前だったので、見直されることは凄くいいことだと思う」という働き方改革に対して前向きなご意見の回答は結構多かったんです。一方で「現状はどうですか?」というところに関しては、「あまり変わっていない」と感じている人たちもまだまだ多くて、「やっぱりそうなんだよな」と思いました。

 研修医のところはある程度変わってきている部分があるかとは思うんですが、それ以上の世代の働き方が実際に変わっているのかというと、現状あまり変わっていないというのが正直なところかと思います。

 実態として何が起きているかというと、基本"罰則"で縛られているので、病院や管理する側はバレなければ(語弊があるかもしれませんが)変えなくてもいいのではないかというところもあって、変わるメリットというのがあんまりないんですよね。ですので「こういう風にするとメリットがあったよ」という意味を見つけていくことができれば、もっと働き方改革が前に進んでいくのではないかと思います。

次回のランチタイム勉強会
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