医療AIの進化は目覚ましく、臨床現場だけでなく、ビジネスの世界に与えるインパクトも大きい。2025年2月に開催された「医師のためのランチタイム勉強会」では、大阪大学大学院の三吉範克氏と医師兼起業家であるアンター株式会社の中山俊氏が登壇。医療AIの現状と将来像ついて、臨床医と起業家の観点から熱く語り合った。 中山 俊(なかやま しゅん)アンター株式会社代表取締役 CEO鹿児島県出身。鹿児島大学医学部を卒業後、2011年国立病院機構東京医療センター初期研修医。成田赤十字病院整形外科、翠明会山王病院整形外科を経て2016年アンター株式会社を設立。東京都医科歯科大学客員准教授 三吉 範克(みよし のりかつ)大阪大学大学院医学系研究科学部内講師医学博士。2002年、神戸大学医学部卒。18年から現職。消化器外科の最前線でロボット手術をはじめ日々多数の手術を手がける臨床家であり、医療デジタル分野を牽引するキーパーソンの1人。内視鏡画像診断AIや手術支援AIの開発、VR・遠隔技術の活用に取り組み、その見識は各メディアから注目を集める。教育者としても熱心で次世代の育成に尽力。大阪国際がんセンターではプロジェクトリーダーとして最先端のがん研究も推進する。 医療AIにある「期待と現実」「臨床とビジネス」という2つの乖離 医療現場でのAIの受け止め方について、日々臨床に立つ三吉氏は、「日常生活でAIが身近になった今、医療現場でも"AIが診断をサポートしてくれる""問診を代行してくれる"といったイメージが自然に広がっている」と話した。しかし、こうした期待に反し、実際には研究において医師が自らスクリプトを書いて解析する専門的な使い方が多く、医療AIに対する期待と現実のギャップがあると見ている。 中山氏はビジネスの視点から、「医療AIが注目されているのは間違いない。ただし、普及するには販路とニーズが重要だ」と冷静に現状を捉えた。「良い製品を作ったとしても、買い手、購入する明確な理由、収益性がなければ現場には届かない。AI製品が医療現場に届くには販路とニーズへの接続が欠かせない」と指摘する。その言葉には、臨床とビジネスの間にある距離感がにじむ。 これを受けて三吉氏は、「大学病院発のベンチャーであっても、ニーズがなければ社会市場で事業は成立できない」と述べ、単に研究するだけでなく"出口(=売れる)"を意識した開発の重要性を強調。「がん細胞などの研究も、必要性は高いものの売れるわけではない」と実用化の難しさに言及した。 必要性という点に関して、中山氏は提示した「希少疾患用のAIと汎用的なAIのどちらに注力すべきか」という問いも興味深かった。「最初から両方を開発するのは難しい。販路や資金があれば可能だが、多くの企業は汎用性の高い領域から始めざるを得ない」と述べ、医薬品の開発と同様に、取り組みやすいところから始めることが医療AIにも必要だと説いた。 日本の医療技術と高品質な画像データは内視鏡AI開発の強みに 三吉氏が「進化はまさに爆発的」と称する医療AIが、最近保険適用され内視鏡AIだ。上部消化管と下部消化管どちらも診療報酬加算が認められ実装段階にあり、日本における医療AI開発の成功例と言える。自らプログラミングを手がけ、医療AIを作成する三吉氏は、「画像AI開発の鍵は、教師データとなるラベル付きで管理された内視鏡画像が揃っていることだ」と画像データとその管理体制の重要性を強調。これに加えて、中山氏は「販路がある製品が先に走る」と成功のポイントを付け足した。 内視鏡AIの開発における強みとして挙がったのは、日本ならではの医療技術とデータの質の高さだ。三吉氏によると、日本の内視鏡医は世界でもトップクラスの技術を持つため、取得された画像データは高品質な教師データになるという。また、「長期にわたって患者を丁寧にフォローする医療文化が根付いており、継続的な臨床データの蓄積がAI開発に極めて有利に働く」と話す。対して、海外では良質な医療データが集積されにくく、臨床試験または保険診療の大規模データを利用するしか手段がない。つまり、精度の高いデータベースが自然と構築されるという点で、日本は医療AI開発において他国に対して優越性があるというわけだ。 次回のランチタイム勉強会配信テーマ・視聴予約はこちら