「早期の降圧薬開始は有効」論文への疑問

「健診で発見された高血圧例」対象の韓国・日本研究を深掘り

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ
〔編集部から〕本連載は、主要医学ジャーナルに目を通すことを毎朝の日課としている医学レポーターが、SNS上での反響も踏まえ、毎週特に目を引いた論文5本をピックアップ。うち1本にフォーカスします。6月30日~7月6日の1週間に公開された論文からフォーカスしたのは「早期降圧薬開始の有効性」に関する論文。その他のピックアップ論文は、末尾をご覧ください。

日本研究で有効性示すもデザイン上の限界あり

 患者の血圧上昇が見つかった場合、経過観察をどれほどの期間すべきだろうか。日本高血圧学会の『高血圧診療ガイドライン2019』では、「130~139/80~89mmHg」の場合、高リスクならば「おおむね1カ月後」、それ以外は「おおむね3カ月後」の再評価を推奨し、高リスク例で十分な降圧がなければ降圧薬開始も選択肢としている。

 最近、わが国の実臨床データを用いた解析から、40歳以上であれば、血圧高値発見後1年以内の降圧薬開始がそれ以降の開始に比べ、心血管(CV)イベントを抑制するとのデータが報告された (Hypertens Res 2025年6月19日オンライン版、関連記事「高血圧指摘後、治療開始1年以上遅延で心血管リスク増」)。

 健診で「≧130/80mmHg」を指摘され、その後降圧薬を開始・継続できた心腎疾患既往のない52万例強を追跡したデータである。平均1,061日間の追跡期間中に9.3%が「CV死亡」「急性冠症候群」「脳血管障害」を来していた。

 ビッグデータ解析だが、平均追跡期間は1,000日強と短く、また絶対リスク減少幅は記されていなかった。

 また、CVイベント発生率もかなり高い。日本人高リスク高血圧例を対象としたランダム化比較試験(RCT)におけるARB群の「死亡・心筋梗塞・脳血管障害」発生率は平均3.2年間観察で6.4%だった(Hypertension 2008; 51: 393-398)。

 ところが7月4日、それらの限界を補う研究がEur J Prev Cardiolに掲載された。韓国の健診受診者約50万例を10年以上追跡したデータである。著者は韓国・Seoul National University HospitalのMin Woo Kang氏ら。はたして早期の降圧薬治療開始で、臨床的に有意義なCVイベント減少は観察できたのだろうか。

宇津 貴史(うつ たかし)

医学系編集会社、広告代理店(編集職)とメディカルトリビューン(記者)を経て、2001年からフリーランス。新聞系メディアなどに記名、匿名で執筆を続ける。平日は原則として毎朝、最新論文をチェック(https://x.com/Office_j)。特定非営利活動法人・臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)会員。会員向けニュースレター記事執筆、セミナーにおける発表などを担当。日本医学ジャーナリスト協会会員。共著に『あなたの知らない研究グレーの世界』(中外医学社)。

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