福島の甲状腺がん過剰診断に見る日本の宿痾

りんくう総合医療センター甲状腺センター長 髙野 徹

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 小児甲状腺がんは100万人に数人という極めてまれながんである。しかし、現在福島県では400人もの子供や若者が甲状腺がんと診断され、その大半が既に手術を受けていることはほとんど話題に上らない。原発事故の被曝の影響を想像する方もいらっしゃるであろうが、福島の現状について、国連の専門委員会は、被曝の影響を完全に否定する一方で「過剰診断」への警鐘を鳴らしている福島では小児甲状腺がんの過剰診断による健康被害が発生している。これが国際的なコンセンサスである。

 過剰診断とは、一生患者に害を与えないがんを診断してしまうことである。診断をされなければ問題がなかったはずのがんを見つけられてしまった子供の多くは、無駄な手術を受けた上で「がん患者」のレッテルを貼られ、その影響を一生引きずることになる。彼らは決して「がんが早く見つかって幸せだった患者」ではない。では、どうして福島で過剰診断が発生したのか、そしてなぜそのことを大多数の日本の医療者たちは知らないのか。そこには日本の医療界に潜む宿痾がある。

髙野 徹(たかの とおる)

りんくう総合医療センター甲状腺センター長

高校まで佐渡島で育つ。東京大学理学部天文学科卒業後、大阪大学医学部に学士入学、同大学院修了、医学博士。大阪大学講師を経て現りんくう総合医療センター甲状腺センター長兼大阪大学特任講師。専門は甲状腺がんの分子病理学。2000年に新たな発がん理論として芽細胞発がん説(fetal cell carcinogenesis)を発表、これに基づく甲状腺がんの自然史のモデルは国際的に広く知られている。日本甲状腺学会七條賞、日本臨床検査医学会ベルグマイヤー・カワイ賞受賞。2017~19年福島県民健康調査検討委員会委員兼甲状腺評価部会部員、2019~22年ヨーロッパ甲状腺学会小児甲状腺腫瘍診療ガイドライン作成委員。共著として「福島の甲状腺検査と過剰診断」(あけび書房)など。髙野番匠家第十九代当主。

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