研究の背景:フェロモンの謎に迫る 動物界における体臭(フェロモン)が生殖行動やパートナー選択を決定付ける化学的シグナルであることは、確立された知見である。一方、ヒトの嗅覚コミュニケーションの生物学的意義については、長らくその具体的なメカニズムが不明瞭であった。 先行研究では、男性が女性の排卵期に発生する体臭に対し、他の月経周期と比較して有意に高い魅力を感じる傾向が示唆されてきた。しかし、その心理的・生理的影響を誘発する揮発性成分が特定されておらず、現象論的な理解にとどまっていた。 東京大学農学部などの研究グループは、この未解明領域に焦点を当て、月経周期を通じた女性の腋臭成分を詳細に分析することで、ヒトにおける嗅覚シグナルの化学的実体と、それが男性の認知・生理に及ぼす影響の解明を試みた(iScience 2025; 28: 113087)。