ドクターズアイ 川口浩(整形外科)

「低価値医療」へと驀進する日本の骨粗鬆症

「内向き学会」と「場当たり行政」の大罪

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景:ベンチがアホでも、献身的な働きをするOLSチーム

 最近、医療機関の廃業・倒産が相次いでいる。行政は「高齢者の薬漬け医療で延命しているクリニックはトットと潰れてしまえ」と、対策どころかむしろ拍車をかけている。全く同感である。

 厚生労働省が虎視眈々と画策しているのが、「低価値医療」の保険診療からの除外である。「低価値医療」とは、要するに「大して役に立たない金食い虫医療」のこと。高血圧や脂質異常症がその筆頭だが、これに続いてロックオンされているのが、何を隠そう骨粗鬆症である。問題は、現場の医者を含む関係者がこの危機感を全く持っていないことである。

 先日、10年以上ぶりに「日本骨粗鬆症学会」に参加したが、その「能天気ぶり」に愕然とした。アカデミアと製薬企業ががっちりスクラムを組み、トコトン内向きに収束している。極めて独善的で、患者に対しても行政に対しても、外向きの姿勢が皆無である。「アナボリックファースト」などと連呼して、年取って顔に小皺ができた程度の軽症骨粗鬆症患者にも高価な骨形成促進薬を使うことをバンバン推奨し、その結果、公的医療費を湯水のように浪費させている(関連記事「暴走する『アナボリックファースト』を止めよ!」)。まさに「低価値医療」、「金食い虫医療」の加速装置である。

 おまけに、研究不正疑惑によって論文を撤回された世界中の研究者ランキング実名公開サイト「Retraction Watch」においてワースト10に入っている人物が、なんと学会の理事に就任している。その研究不正疑惑については、Scienceで取り上げられている(Science 2018; 361: 636-641)。所属大学に調査委員会が立ち上がっており、「二重投稿」「無承諾共著」の研究不正行為があったと認定している。

 もちろん、個人攻撃が本意ではない。問題は、評議員会での私の糾弾に対して、学会の重鎮が「所属大学の調査委員会は無実と判定した」と、シャーシャーとシラを切ったことである。研究不正は解任、詭弁を弄するトップは辞任、これが社会の常識である。

 ベンチがアホでも野球はできる。今の骨粗鬆症医療を支えているのは、現場の医療関係者の献身的な働きに他ならない。特に、英国の骨折リエゾンサービス(FLS)にならって2011年にわが国で始まった骨粗鬆症リエゾンサービス(Osteoporosis Liaison Service;OLS)メンバーの存在は大きい。OLSは多職種間や施設間の連携による骨粗鬆症の地域医療への取り組みで、全国に拡大している(関連記事「『骨粗鬆症リエゾンサービス』の独善」)。

 私は現職〔名戸ヶ谷病院(千葉県)・整形外科顧問〕に就いて2年になるが、10年前から続いている地域のOLSチーム(OLS-Kashiwa)メンバーの真摯で献身的な活動を常に感心しながら見てきた(だけで、ほとんど役に立ってないけど)。今回紹介する論文は、OLS-Kashiwaから最近相次いで報告された2編の論文である(Arch Osteoporos 2025; 20: 82J Bone Miner Metab 2025年10月1日オンライン版)。

川口 浩(かわぐち ひろし)

社会医療法人社団蛍水会 名戸ヶ谷病院・整形外科顧問

1985年、東京大学医学部医学科卒業。同大学整形外科助手、講師を経て2004年に助教授(2007年から准教授)。2013年、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター・センター長。2019年、東京脳神経センター・整形外科脊椎外科部長。2023年から現職。臨床の専門は脊椎外科、基礎研究の専門は骨・軟骨の分子生物学で、臨床応用を目指した先端研究に従事している。Peer-reviewed英文原著論文は350編以上(総計impact factor=2,060:2025年4月現在)。2009年、米国整形外科学会(AAOS)の最高賞Kappa Delta Awardをアジアで初めて受賞。2011年、米国骨代謝学会(ASBMR)のトランスレーショナルリサーチ最高賞Lawrence G. Raisz Award受賞。座右の銘は「寄らば大樹の陰」「長いものには巻かれろ」。したがって、日本の医療の「大樹」も「長いもの」も、公正で厳然としたものであることを願っている。

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