冠動脈疾患では制御性/エフェクターT細胞比が低下

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 ヒトおよびマウスの動脈硬化による慢性炎症には,先天免疫に加えて,T細胞を介する獲得免疫応答が重要な役割を果たすことが知られている。制御性T細胞(Treg)は動脈硬化に保護的に働くことが実験的に確認されているが,ヒトの冠動脈疾患(CAD)発症機序にTregがどのように関与するのかは分かっていない。神戸大学循環器内科の江本拓央氏らは,ヒトTregを正確に同定するための最新の手法を用いて,安定CAD患者の末梢血T細胞を解析。健康人を対照として比較すると,CAD患者ではTreg,および制御性T細胞/エフェクターT細胞(Treg/Teff)比が有意に低下していることをCirc J(2014;78:2935-2941)に報告。これらの所見は,CAD患者における免疫のアンバランス状態を反映したものと考えられるという。

研究者の横顔

神戸大学循環器内科
江本拓央氏

 江本氏は兵庫県立淡路病院(現・淡路医療センター)で臨床研修後,2012年に神戸大学循環器内科博士課程に入学。炎症免疫研究グループに所属し,同科教授の平田健一氏,山下智也氏,佐々木直人氏らの指導を受け,今回の論文をまとめた。同科では,炎症免疫反応の制御による動脈硬化の新規予防・治療法の開発を目指して研究を進めている。その一環として今回,Tregを正確に同定するための最新の手法を用いて,安定CAD患者末梢血でTregおよびTreg/Teff比が低下していることを初めて示した。研究の次の段階では,動脈硬化による免疫のアンバランス状態をいかに改善できるかが問題になる。

 今回の結果から,Tregを誘導するアプローチが有用と考えられるが,今のところ,抗体などの薬物によるTreg誘導は副作用の観点から,ヒトへの応用は難しい状況である。江本氏らは現在,紫外線や腸内細菌を治療に利用できないか検討中で,皮膚科疾患患者において紫外線照射によるTreg誘導作用,血圧や血管内皮機能への影響や,CAD患者における腸内細菌叢の変化について調べている。

 同氏は「動脈硬化性疾患では適切な薬物療法を行っても心筋梗塞や脳梗塞,末梢動脈疾患の併発,再発を防ぎ切れない場合がある。このような患者では炎症免疫をターゲットにした治療が必要になるのではないか。その方法論をさまざまな角度から模索し,新しい治療法の開発につながるような研究をしていきたい」と抱負を述べている。

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