ミトコンドリア由来スーパーオキサイドが電気的リモデリングを惹起

~心筋特異的酸化ストレスマウス~

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 酸化ストレスは心血管疾患においても重要な役割を果たしており,心不全の心筋障害や虚血再灌流障害に直接関与することが知られている。しかし,器質的心疾患のない状態での心筋の電気的リモデリングと酸化ストレスとの関係は明らかでなかった。北里大学循環器内科(阿古潤哉教授)の黒川早矢香氏(現:日本大学板橋病院循環器内科)らは,心筋/骨格筋特異的スーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)2ヘテロ欠損(H/M-Sod2+/-)マウスに,グルタチオン合成酵素阻害薬であるBSO(L-buthioninesulfoximine)を加えることで,心筋に酸化ストレスが蓄積しやすいが,その表現型は野生型(WT)と明らかな違いはないという心筋特異的酸化ストレスモデルを作製。同モデルでは,心筋ミトコンドリア由来のスーパーオキサイドがカリウム(K)チャネル発現低下を介して電気的リモデリングを惹起することをCirc J(2014:78:1950~1959)に報告。不整脈基盤の形成過程にも酸化ストレスが直接関与している可能性を初めて明らかにした。

研究者の横顔

北里大学循環器内科(現・日本大学板橋病院循環器内科)
黒川早矢香氏

 黒川氏は北里大学を2003年に卒業。心臓カテーテル治療に携わりたいと,同大学での臨床研修3年目に循環器内科(当時:和泉徹教授,現:阿古潤哉教授)に入局。2007年に同大学大学院に入学し不整脈研究班に所属,診療教授の庭野慎一氏の指導を受けた。当時,循環器分野でも不整脈や電気生理学はむしろ難解に感じていたので,大学院で勉強しなければ苦手意識を克服できないと考えたという。

 同氏らは,不整脈基盤の形成過程やそれを抑制するアップストリーム治療の研究を進めてきた。その一環として黒川氏も,酸化ストレスの不整脈への影響に関する研究を開始。BSO投与により全身性グルタチオン欠乏を惹起した酸化ストレスモデルでMAPD90の延長とERPの短縮,心室の催不整脈性の増強が認められたことから,酸化ストレスが電気的リモデリングを惹起しうることを報告した(Circ J 2011;75:1386-1393)。このモデルの問題点を踏まえて,心筋特異的酸化ストレスモデルで,しかも器質的心疾患を起こさない実験系の確立に試行錯誤を重ねたことが,実を結んだ。H/M-Sod2+/-+BSOという2段階で酸化ストレスを増強した今回のモデルでは,心臓の構造や機能にはほとんど影響を与えないものの,心筋ミトコンドリア由来のスーパーオキサイドが増強されることを確認。その上で,酸化ストレスでも不整脈が起こりうること,またその背景にK+チャネルの変化が影響している可能性について明らかにできたことは意義深いという。

 同氏は「不整脈基盤の形成過程における酸化ストレスの制御を研究することは,既出のアップストリーム治療の概念を超える次世代の治療につながる可能性がある。今後は臨床医としての技能向上とともに,不整脈を根本から治療する研究をしたい」と抱負を述べている。

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