医師はその時パニックかも!
獨協医科大学埼玉医療センター こころの診療科
井原 裕

今回は「医者の言い訳だ」と思って、お読みください。疑義照会を受ける医師はこんな状況にある、という話です。
電話はたいてい、不都合なタイミングでかかってきます。診療の真っ最中でパニック状態か、一日の外来が終わり力尽きているかです。以下に外来の日常をご紹介いたします。これは精神科医の場合です。
精神科医がドラマに出てくるシーンは、静かな室内、穏やかな物腰の医師、患者さんはゆったりとした時の流れに身をまかせ、切々と自らの内面を語る、こんな感じですが、これは全くの虚構です。
実際には、精神科外来は野戦病院そのもの。日々の診療は格闘技です。都市部の外来では、1時間に6人から10人は診ざるを得ません。当然、患者さん1人の時間は5〜10分です。マイクで患者さんの番号を呼び、入室するまでの数秒間に診療録を開いて前回、前々回の記録を一瞥します。
ドアの開く音がゴングのように響き、患者さんがこちらへ向かってきて、言葉のパンチを繰り出してきます。患者さんたちは、アリスの名曲「チャンピオン」に出てくる若い挑戦者のごとくであり、野性的な激しさで襲いかかってきます。その勢いたるや、いったいどこがうつ病なのか、どこが不安障害なのかと疑ってしまうほどです。
私たち精神科医は、これに対して、顔は穏やかな笑みを浮かべ、しかし、こころはガードを固めて、しなやかに患者さんの言葉をかわして、一瞬の隙を見てカウンターのひと言をお届けします。そして、「お大事に」と言うや否や、処方画面を見てオーダーを発行し、患者さんの退出と同時に、次の患者さんを呼びこみます。このボクシングのような診察が、朝から夕まで延々と何十ラウンドも続くわけです。
外来が10ラウンドぐらいなら、疲れません。しかし、ラウンドも回を重ねると、しだいに疲労がボディ・ブローのように効いてきます。挑戦者は次から次へと果てしなく入れ替わります。こっちはたった1人です。
やっと1日の診察が終了し、その最後の患者さんに「お大事に」と言います。そして、診察室に1人残された医師は、『あしたのジョー』のラストシーンのごとく、白く燃え尽きて灰になっているのです。
これが現実です。私どもは、疑義照会の重要性も理解しております。どうぞいつでもお電話をおかけください。でも、医師の対応の様子がいつもと違う感じなら、たぶん、パニック状態か、疲労困憊かのどちらかのはずです。
以上、医師の言い訳でした。
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