「みんなのためになる疑義照会を考えよう」企画最終回。 今後の疑義照会の在り方をめぐる激論の模様をレポートする。異色のメンバーによる座談会では、疑義照会の多様性、医師や患者の無理解、行政に無駄な疑義照会を強いられている側面、調剤報酬優先の薬局経営とそこで働く薬剤師の苦衷など、疑義照会の"難しさ"が語られた。その一方で、疑義照会簡素化プロトコルの有用性、地域での事後的処方カンファレンスの可能性、さらには疑義照会で地域医療の質を上げる試みなど明るい展望も示された。 「そのままで」と言われて調剤し事故が起きたときの責任は? 高橋 疑義照会には、社会が薬剤師にどの程度の責任を持たせようと考えるのかという問題が絡んでくると思います。疑義照会に対し「そのままで処方変更しないで」と医師が言ったとき、薬剤師はどうするか。本来、疑義のある処方は調剤してはならないわけですが、PT誌アンケートでは「疑義が解消するまで調剤をしない」は、28%にとどまりました(図)。そして、結果的に医療事故につながった場合、薬剤師の責任はどうなるのか。実はこの点が明確ではありません。十数年前に薬剤師も共同責任を負うという判例がありましたが。 岩田 どういう事例ですか。 高橋 ある小児科医が、病気の乳児は薬の飲みが悪いから多めに処方すると、あらかじめ門前薬局に説明をした上で2~3倍量を処方していました。薬剤師は嫌がっていたのかもしれませんが、医師の裁量を慮っているうちに1人が意識消失となり、何週間か入院したのです。民事裁判では、薬剤師は専門家として危険を認識していたのだから、投薬そのものについて責任があり、医師の了解で免責されるものではないと判示されたのです3)。医療機関と薬局とは別施設であり、判決は医薬分業の趣旨そのものです。それを薬剤師や医師、医療業界は受け止めるどころか、今も拒否し続けている状況です。 3)1995年10月、生後4週間の新生児に常用量の3~5倍のマレイン酸クロルフェニラミンとリン酸ジヒドロコデインが処方され、薬剤師が調剤したことにより、患児は呼吸困難、チアノーゼを来たして1週間入院。その後も入退院を繰り返した。薬剤師は処方医から、かぜなどに罹った乳児はミルクの飲みが悪く、薬も必要量を服用しないことが多いため、過量処方でもそのまま調剤するよう指示を受けていたが、医師・薬剤師の両名が過失責任を問われた。 岩田 医療倫理の世界では、部下が上司に明らかに理不尽なことを命じられた場合、第三者に異議申し立てをして、それに従わない権利があるとされています。医師と薬剤師は上司と部下ではありませんが、看護師が医師から指示を受けたときも同様です。上からの指示だと、うのみにしてはいけない。判決もこの点を言っているのだと思います。 松原 そうした理不尽を許してしまったクリニックと薬局の関係が問題です。例えば、検査値を知らず腎機能の低下を把握していなかったので、過量投与かどうか薬剤師に判断できなかった場合は、処方した医師が悪い。処方箋にeGFRが載っていれば、それを見落とした薬剤師も責任を取る。そういうシンプルな関係にもっていくべきだと考えます。