薬剤師のための漢方薬講座/皮膚疾患-現代医学的・東洋医学的な考察- 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする 亀田総合病院 東洋医学診療科南澤 潔 氏 イラスト:吉泉ゆう子 湿疹や蕁麻疹、アトピー性皮膚炎など、皮膚の痒みは大変不快な症状で、時には睡眠を妨げることもあり、QOLを大きく下げます。 東洋医学的には、皮膚の異常は気血水や五臓の様々な不調の影響を受けて起こると考えます。病名に惑わされることなく、原因と状態をしっかりと把握して改善方法を決めていくアプローチを紹介します。 目次 皮膚とは 最大の臓器である皮膚の多様な機能 皮膚の病態 現代医学的な考察 東洋医学的な考察 気血水では瘀血と血虚が多い 乾燥が目立つ湿疹 全身性の湿疹 ◎皮膚とは 最大の臓器である皮膚の多様な機能 普段あまり意識することはありませんが、私たちの体全体を覆っている皮膚は、成人で面積が約1.6m2(0.5坪、畳1枚相当)、重量は体重の約1割を占める人体で最大の臓器といわれています。皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3層と、汗腺や皮脂腺、体毛などの付属器から成り、体内と外界を隔てています。 外界と直接触れる皮膚は、①自己と非自己の境界最前線でさまざまな外敵(病原性微生物や毒性物質など)や異物(異種の抗原性物質)から体内を守る防御機能、②発汗や血管の拡張収縮による体温調節、③ビタミンDの合成、④体温や水分の喪失防止など、人体の恒常性を維持する重要な役割を担っています。 皮膚の病態 体内外を境界として異物の侵入を防ぐために、皮膚には免疫細胞や状況を感知する知覚神経も豊富に分布しています。外敵の侵入や有害刺激に対して、防御反応として炎症が起こると湿疹や皮膚炎を発症し、皮膚のバリア機構が障害されると有害な物質の侵入が容易になり、湿疹はますます悪化してしまいます。いったん湿疹や皮膚炎が起きると、豊富に分布する神経が強い症状を伝達します。 また、表皮には自己と非自己を判別して異物を排除攻撃する役割を持つ「免疫」を司るランゲルハンス細胞が存在し、異物の侵入に対して免疫系が活性化します。これが過剰に、または誤って作動するとアトピー性皮膚炎が発症します。 ◎現代医学的な考察 「外界=非自己」と「体内=自己」の境界最前線では日常的に、外敵や異物とのせめぎ合いが起きています。強力な外敵である病原性微生物による皮膚の炎症に対しては、抗菌薬や抗真菌薬による治療が有効です。ニキビや吹き出物も細菌が関与しており、抗菌療法が行われます。 一方、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性皮膚疾患に対しては、過剰な免疫応答を抑えるステロイド薬やタクロリムスなどの免疫抑制薬、アレルギー症状を抑制する抗ヒスタミン薬などが内服または外用で投与されます。また、皮膚のバリア機能障害に対しては、水分の喪失を補うために保湿剤などの外用薬が補助的に用いられます。 ◎東洋医学的な考察 気血水では瘀血と血虚が多い アトピー性皮膚炎を含めた「湿疹」は、気血水では瘀血(おけつ)と血虚が、寒熱では熱の病態が関わっているケースが多く見られます。また、東洋医学的な仮想概念として、体表に遊走性の病気をもたらすという存在である「風邪(ふうじゃ)」が痒みに関連していると考えます。 乾燥が目立つ湿疹 患部の乾燥が目立つ湿疹では、一般的に血虚の病態が存在すると考えられるのですが、血虚を補う代表的な生薬である当帰や川芎、地黄には同時に体を温める作用があり、湿疹の炎症の強いときに用いると逆に皮疹の悪化を招くことがあります。そのためこれらを含む補血剤の代表である四物湯(しもつとう)は単独でなく、清熱剤である黄連解毒湯(おうれんげどくとう)を組み合わせて温清飲(うんせいいん)として、または温清飲が基本骨格である方剤が広く用いられます。逆に、滲出液が出てくるような病態は熱と水毒が主体と考えます。 全身性の湿疹 全身に広がっているタイプの湿疹は、慢性化するに従って冷えや気虚など、患者全体としては虚の状態に陥ることがあり、補剤の適応となることも少なくありません。成人の全身型アトピー性皮膚炎では、他にも気うつ、気虚、水毒などが絡み大変複雑な病態になっていることが多く、しばしば治療に難渋します。一方、小児のアトピー性皮膚炎は気虚、脾虚が目立つ例が多いのが特徴的です。 ◆執筆者◆ 南澤 潔 氏 医学博士日本東洋医学会 漢方専門医・指導医日本内科学会 総合内科専門医・指導医日本救急医学会 救急科専門医 【ご略歴】1991年 東北大学医学部 卒業1991年 武蔵野赤十字病院 研修医1993年 富山医科薬科大学(現 富山大学)和漢診療科1995年 諏訪中央病院 内科1996年 成田赤十字病院 内科1999年 麻生飯塚病院 漢方診療科2001年 富山大学 和漢診療科2006年 砺波総合病院 東洋医学科 部長2009年 亀田総合病院 東洋医学診療科 部長 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ×