ホスピタ薬局 石井佳郎 インフルエンザに対しては抗ウイルス薬による治療が一般的ですが、最近では漢方薬による治療も取り入れられていると聞きます。インフルエンザにはどのような漢方薬が使われるのか、そして、どのように使い分けられているのかを、日常的に漢方処方を扱っている石井佳郎氏に解説していただきます。 ◆インフルエンザといえば麻黄湯? インフルエンザの治療には、原因療法として抗インフルエンザウイルス作用を持つノイラミニダーゼ阻害薬が、対症療法として解熱鎮痛薬が主に用いられている。最近では、これらの西洋薬に加えて、麻黄湯などの漢方薬の処方が見受けられるようになった。そのきっかけの1つとして、2009 年4 月に鍋島茂樹(福岡大学病院)らが、インフルエンザの治療において麻黄湯はオセルタミビルリン酸塩と同程度の発熱や頭痛などの症状軽減効果があるという研究結果を報告※1)したことが挙げられるだろう。 実際にインフルエンザの治療に用いられる漢方薬は麻黄湯だけではない。医療用医薬品のエキス剤では麻黄湯、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、竹筎温胆湯(ちくじょうんたんとう)がインフルエンザに用いられているが、これら以外の漢方薬もインフルエンザの治療に使用されることがある。これは、漢方薬は病名で処方されるのではなく、患者の症状と体質に応じて選択されるためである。 インフルエンザに用いられる漢方薬の使い分けを理解すれば、処方された漢方薬から患者の病状や体質を推測でき、より的確な服薬指導が可能となる。さらに、インフルエンザ以外の疾患でも病状・体質により同じ漢方薬が処方されることもあるので、普段の服薬指導に応用することができる。 ※1 Nabeshima S, et al. J Trad Med 2010; 27(4): 148-156. ◆幅広い患者に対して細かな対応ができる漢方薬 ノイラミニダーゼ阻害薬のオセルタミビルリン酸塩(タミフル®)は、10 歳代への使用を原則として控える。一方、漢方薬は含有生薬に対してアレルギーを持つなど特別な事情がない限り、投与対象とならない患者はいない。また、漢方薬は複数の方剤や生薬末を合わせて使うこともできるので、より細かな対応が可能である。 ◆漢方薬と他剤との併用 インフルエンザの治療で、漢方薬は単独で処方される他、ノイラミニダーゼ阻害薬や解熱薬と合わせて処方されることが多い。詳しくは後述するが、発熱・発汗効果を期待して漢方薬を投与する時期がある。この時期には、解熱薬を原則として併用しない。漢方薬の効果を相殺してしまうためである。解熱薬の使用については、服用時期などを処方医にあらかじめ確認しておくとよい。漢方薬とノイラミニダーゼ阻害薬との併用については問題ないとされている。 ◆苦みや香りも薬効の1つだが苦手なら飲みやすい形で 服用方法 苦味・香りが効果を上げる場合もあるので、お湯に溶かすことをお勧めする。苦手であれば、オブラートに包む方法もある。 服用時間 一般的に空腹時とされているが、空腹で飲めない場合は食後に服用しても問題がないことが多い。 服用期間 漢方薬は効果が出るまでに時間がかかるという印象が一般的にあるが、即効性が期待できるものも少なくない。インフルエンザやかぜなどの急性の病気であれば1回の服用で熱が下がることもあり、飲み切るように指導するのが適切ではない場合もある。体質改善・慢性疾患に対しては早く効果が現れるものもあれば、一定期間飲み続ける必要があるものもあるため、症状の変化に合わせて処方を変えていくことが多い。 ◆インフルエンザに処方される漢方薬の使い分け 漢方薬が何を目的に処方されたかを理解した上で指導する必要がある。特に「温めるのか冷ますのか」という点は、患者の状態把握と適切な服薬指導に不可欠な要素である。 次のページではインフルエンザの病期・病状ごとに用いられる漢方薬を解説。