総合感冒薬~普通のかぜ薬と漢方、どっちがイイですか?-後編 医療法人社団徳仁会中野病院 青島周一 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする どうしても漢方がエエねんっ 漢方薬の方がよく効くと考えている方には、漢方薬に関する独自の信念が大きく関係している可能性もあります。漢方を処方している3つの外来診療所でのアンケート4)によれば、ほとんどの患者に漢方の服用経験があり、健康問題や環境問題に対する意識が高いことが示されています。 この研究では、医師の診察前に社会人口統計データ、病歴、漢方の服薬経験、健康に関する一般的な意見や行動、西洋医学や漢方に対する意見、漢方利用の理由などについて質問をしており、合計354人(平均51歳、女性68%)が回答しました。対象者のうち73%(202人)が現在漢方を服用しており、84%(297人)が漢方の服用経験を有していました。 このアンケートでは、漢方薬を選ぶ理由として、「西洋薬より効果的で副作用が少ない」という回答もあったようです。しかしながら、総合感冒薬と葛根湯の有効性、安全性について客観的なデータを考察してきた僕たちとってみれば、こうした意見には程度の差はあれ、主観や信念が、多分に含まれているということが容易に想像できると思います。この研究でも、漢方に対するさまざまな思想や哲学への信念が、その使用に影響することが示されています(表4)。 表4 漢方薬の使用に影響を与える因子 参考文献15より著者作成 プラセボ効果を活用してみる 葛根湯の客観的な有効性については、総合感冒薬との明確な差はないものと考えてよいと思います。ただ、眠気などの副作用は、抗ヒスタミン薬や鎮咳薬を含有している総合感冒薬で多いかもしれません。こうした副作用をどう捉えていくかは、患者さんの背景にもよるでしょう。休暇は取れるのでしっかり睡眠を取りたい人には、総合感冒薬による傾眠の副作用はむしろ積極的に活用したいところです。 葛根湯と総合感冒薬で客観的な有効性に差がないのであれば、つまるところ、どちらでもよいわけです。ただ、「どうしても漢方がよい」という人に対しては、薬剤説明を工夫することで、より有効性を期待することができるかもしれません。 第1回でも考察しましたが、そもそもかぜの症状に対する薬剤の効果は限定的です。ならばむしろ積極的に活用すべきはプラセボ効果かもしれません。 急性咳嗽を発症した生後2~47カ月の小児120人を対象に、アガベシロップ、プラセボ、無治療の3群を比較したランダム化比較試験5)によれば、無治療に比べて、アガベシロップだけでなくプラセボでも咳嗽症状が改善したと報告されています。かぜ症状に対する薬剤のプラセボ効果はそれほど期待できないかもしれないという研究報告6)もありますが、現実にはこうした効果を積極的に利用することで患者アウトカムの改善につなげられる可能性はあるわけです。 「効果については、総合感冒薬とそんなに変わらないので、どちらでも大丈夫ですよ」というような説明よりも、「葛根湯は総合感冒薬と比べても効果が劣るものではありませんし、肩凝りがあるような人には特にお勧めかもしれません」という感じで、エビデンスを踏まえつつも、お客さんの漢方のイメージを否定しないような説明をすることで、積極的にプラセボ効果の上乗せを図りたいところです。特に"漢方はよく効く"というように、漢方に対してポジティブな価値観を有している人に対しては、説明の工夫で、より大きなプラセボ効果を得ることができるかもしれません。 【参考文献】1) Okabayashi S, et al. Intern Med 2014; 53(9): 949-956. PMID: 247858852) 西山明宏、他.感冒予防のために内服した葛根湯で発症した薬剤性肺障害.気管支学2016; 38(2): 140-143.3) Okita M, et al. Biol Pharm Bull 2017; 40(10): 1730-1738. PMID: 287812924) Hottenbacher L, et al. BMC Complement Altern Med 2013; 13: 108. PMID: 236800975) Paul IM, et al. JAMA Pediatr 2014; 168(12): 1107-1113. PMID: 253476966) Barrett B, et al. Ann Fam Med 2011; 9(4): 312-322. PMID: 21747102 【連載コンセプト】薬剤師、登録販売者のためのOTC連載です。OTC医薬品に対する考え方、使い方について「実践的」に整理します。筆者のドラックストアでのバイト経験と、具体的な薬剤エビデンスに基づき、実際の患者にどうアプローチしていけばよいのか、ピットフォールなどを交えて解説していきます。 【プロフィール】 保険薬局勤務を経て、現在は病院薬剤師。NPO法人AHEADMAP共同代表。普段は論文を読みながら医師に対して処方提案などを行っていますが、薬剤師によるEBMの実践とその普及に関する活動もしています。 公式ブログ:思想的、疫学的、医療についてTwitter:@syuichiao89 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ×